2018.06/16(Sat)

Op.444 ベートーヴェン:「ピアノ三重奏曲第7番<大公>」 by ソロモン、ホルスト&ピーニ

ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴くシリーズ」は終了しましたが
またベートーヴェンです。
ベートーヴェンピアノ三重奏曲の中で一番好きな第7番をソロモン他で。
ソロモンの演奏でベートーヴェンのピアノ・ソナタのディスクをショップで探していた頃、偶然目に付き入手をした副産物のディスク。
ソロモンのピアノで「大公トリオ」を聴くことができるなんて、まるで夢みたい・・・と、膨れ上がる期待で手にしたディスク。
ソロモン、HMV初期録音集1942-43」に収録されている一曲です。
演奏者でヴァイオリンのヘンリー・ホルスト及びチェロのアンソニー・ピーニは初めてです。

ベートーヴェンピアノ三重奏曲第7番「大公
ソロモン~HMV初期録音集1942-43 より


(HMV)444ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番 ソロモン Solomon The First Hmv Recordings 1942-3
(収録曲)

ショパン:練習曲Op.10-9
ショパン:練習曲Op.25-2
ショパン:練習曲Op.25-3
ショパン:夜想曲第8番
ショパン:舟歌
ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番Op.97「大公

 ソロモン・カットナー(P)
 ヘンリー・ホルスト(Vn)
 アンソニー・ピーニ(Vc)
(録音:1942年-43年 モノラル 
     ベートーヴェン:1943年9月9-11日) 


第1楽章:Allegro moderato 変ロ長調 4/4拍子
第2楽章:Scherzo: Allegro 変ロ長調 3/4拍子
第3楽章:Andante cantabile ma pero con moto ニ長調 3/4拍子
第4楽章:Allegro moderato - Presto 変ロ長調 2/4拍子


大公トリオ」は3年程前に、ルービンシュタイン、ハイフェッツ&フォイアマンの演奏で登場していたようです。
いつものように当時の記事を参照、コピーのようになりますが自分のメモとして

作品が完成したのは1811年だそうです。
曲の草稿にはベートーヴェンの自筆で最初の部分に「1811年3月3日」の日付。
また最後の部分には「1811年3月2日完成」の日付が記されているそうです。
ノッテポームによると1810年にすでにこの曲のスケッチが幾つかあり
実際には草稿に記された日付けより以前に構想されたものであることが実証されているとのことです。

初演は1814年4月11日にウィーンのホテル「ローマ皇帝」にて行われたと伝えられているとのこと。
ピアノはベートーヴェン自身、ヴァイオリンはシュパンツィヒ弦楽四重奏団のイグナーツ・シュパンツィヒ、チェロがヨーゼフ・リンケの3人による演奏だったそうです。
初演当時、ベートーヴェンの聴力はかなり低下をしており、この初演がピアニストとしてのベートーヴェンの最後の公開音楽会になったとのことです。

出版は作品の完成後かなり年が経過した1816年9月。ウィーンのシュタイナー社より。
自筆譜はベルリン国立図書館に保存。
献呈はルドルフ大公に。


ソロモン、ヘンリー・ホルスト&アンソニー・ピーニで聴くベートーヴェンの
ピアノ三重奏曲第7番(簡単な感想で)

1942年から1943年に当時の英グラモフォンに録音されたものだそうです。
ソロモンは40歳頃の演奏でしょうか。

大好きな「大公トリオ」ですが、今まで聴いてきた演奏とは違うように感じられ妙に印象に残っています。
初めて聴いた時に落ち着かない状態でしたので改めてじっくりと。
初めて聴いた時と同様に印象に残る「大公トリオ」です。

この曲の躍動感や堂々とした趣が気に入っています。
今まで出合った演奏は躍動感があり聴いていて心がときめくようなものが伝わってきました。
そのような耳に馴染んでいる「大公トリオ」。
が、ソロモン、ホルストピーニによる演奏は今まで聴いてきた演奏よりも「静」を感じるようです。
落ち着きがあり静かな印象を受ける演奏でしょうか。
最初、聴いた時には物足りなさを感じてしまったものです。

ソロモンの淀みのないピアニズム。
録音の所為でしょうか、ヴァイオリンとチェロの存在感が弱く感じられてしまいます。
ヴァイオリンのヘンリー・ホルスト(1899-1991年)はデンマークのヴァイオリニストとのこと。ベルリン・フィルのコンサート・マスター(1922-31年)や他のオーケストラのコンサート・マスター等々、音楽大学などの教授も歴任したそうです。
ホルストのヴァイオリンは地味な音色でしょうか。温か味を感じるヴァイオリン。
チェロは控え目すぎ(?)のようにも。

この3人の演奏で印象に残るのは第3楽章でしょうか。
第3楽章で主題をピアノが静かに奏し、続くヴァイオリン。
落ち着きのある響きでヴァイオリンのしっとりとした歌は胸に染み入るようです。
変奏の部分でもヴァイオリンの美しい歌に寄り添うソロモンのピアノも印象的。

初めは躍動感があまり伝わらず物足りなく感じた演奏でしたが、
何回か耳を傾けるうちに味わいのある「大公トリオ」のように感じられてきました。
躍動感に満ちたパートでも落ち着きがあり、高貴な美しさが漂う「大公トリオ」でしょうか。
耳に馴染んでいる心躍らせる演奏も好きですが
この3人が生み出す「静」の「大公トリオ」に新たな魅力を見い出したように感じています。

このディスクを求めたお目当ては「大公トリオ」でしたが・・・。
ソロモンが紡ぎ出すショパンの「練習曲」に耳を傾け
初めてショパンの「練習曲」に好感を抱くことができたように思います。
抜粋ではなく「練習曲」全曲を聴きたくなりショップ・サイトでディスク探しをするほど気に入ってしまいました。
そして「夜奏曲」の何と美しいこと!
「舟歌」の心に沁みる調べ。
ソロモンが紡ぎ出すショパンの虜に。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタのお陰で出合うことができたソロモン。
今でも、いつまでも、ソロモンはお気に入りのピアニストの一人に。


蛇足。いつものオバサンの井戸端会議。
ソロモンについてWikipediaを参照しつつ、自分のメモとして。

本名はソロモン・カットナー(1902年8月6日-1988年2月2日)
ロンドンのイーストエンドに7人兄弟の末っ子として誕生
5歳でクララ・シューマンの弟子、マチルダ・ヴェルンに師事
1912年、10歳でデビュー(プログラムはベートーヴェン、ピアノ協奏曲第3番。指揮ヘンリー・ウッド)
その後、ロンドンにデヴュー(チャイコフスキー、ピアノ協奏曲第1番)
これらのコンサートの成功から「神童ソロモン」と呼ばれ、以後ファースト・ネームの「ソロモン」で活動。
演奏活動での成功にも拘らず、ソロモンは演奏活動を中断。
パリに渡り、マルセル・デュプレ 及びクララ・ハスキルの師でもあるラザール・レヴィに学ぶ。
19歳、演奏活動の開始。
1929年、初めてのレコーディング。
1953年、来日。あまり話題にならなかったとのこと。但し、音楽評論家の吉田秀和氏は彼を高く評価。最高のベートーヴェン弾きとして著作にて言及。
ソロモン、EMIと契約を結ぶ。
1951年からベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音に取り組む。
1956年夏、脳梗塞。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は未完。
引退を余儀なくされる。
           (以上)

                  
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ三重奏曲 大公 ソロモン ホルスト ピーニ ルドルフ大公

20:56  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

2018.06/09(Sat)

Op.443 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第32番」 by アラウ(新旧2種の録音で)

ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
今回でこのシリーズも何とか無事に最終回を迎えることになりました。
ソナタ全32曲のうちベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタ第32番を。
シリーズの締め括りは、やはりアラウで。
1980年代の新録音を主として、1960年代の旧録音の2種で聴いてみました。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第32番
アラウ~デッカ録音全集より

437ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第32番クラウディオ・アラウ~デッカ録音全集

ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111

クラウディオ・アラウ(P)
(旧録音:1965年10月)
(新録音:1985年6月)

第1楽章:Maestoso – Allegro con brio ed appassionato
      ハ短調4/4拍子 ソナタ形式
第2楽章:Arietta: Adagio molto, semplice e cantabile
      ハ長調   


作曲されたのは1821年から22年にかけてだそうです。
先に書かれた作品109の第30番、作品110、第31番と同様に「ミサ・ソレムニス」と並行をして作曲されたとのことです。
スケッチは1819年に始まり1822年の初めに完成。
浄書された原稿には1822年1月13日の日付けがあるそうですがこれは浄書を始めた日と考えられ、書き上がったのはその直後のことと推測されるようです。

ピアノ音楽としては翌年に大作「ディアべりのワルツによる33の変奏曲」Op.120 を始め
この後に幾つか作曲されたそうですがソナタとしてはこれが最後の曲になるとのこと。
曲の楽章構成はベートーヴェンが幾度か試みた2楽章構成に圧縮されているそうです。

ベートーヴェンは1822年6月5日付けでライプツィヒの楽譜出版者ペータース宛ての書簡にて、ピアノ・ソナタを近いうちに渡すことができる旨を書いているそうです。
第30番から第32番までのソナタの他に更に一曲のソナタが着想されていたようですが、痕跡はスケッチにもまったく残っていないとのことです。

出版は1822年、パリとベルリンのシュレジンガーから。
自筆譜はボンのベートーヴェン・ハウス、ベルリンの国立図書館
チューリッヒのボドマー・コレクションに異なる草稿が分散しているとのこと。

            (wikiドイツ)443ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第32番Die erste Ausgabe
             (ピアノ・ソナタ第32番の初版)

献呈はルドルフ大公に。
このソナタは最初の予定ではブレンターノ夫人であるアントーニエ・ブレンターノに献呈される筈だったそうです。
献呈についてはアントーニエ・ブレンターノ 或いは ルドルフ大公の両者間でベートーヴェン自身、かなり迷い二転三転をしたとのこと。
1822年7月1日、ルドルフ大公宛ての書簡にベートーヴェンは次のように記述しているそうです。
「殿下はソナタ <ハ短調> がお気に入られたようにお見受けしましたので、それを突然献呈しましても無作法ではないと考えました。」
因みにアントーニエ・ブレンターノにはベートーヴェンが変奏技法を集大成し、バッハの「ゴルドベルク変奏曲」と並び変奏曲の最高傑作とされる「ディアヴェリのワルツによる33の変奏曲」(1819-1823年作曲)が献呈されたとのことです。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番

力強く厳かな序奏で始まる第1楽章。
荘重で暗さが漂う序奏。
低音域の重厚な響きと余韻が重厚で荘重な趣を更に増加させているようです。
弱音になり奏される左手の低音域を轟かせつつ主部に。
主部に入り低音域の轟きが激しくクレッシェンド。
フォルティシモで力を込め奏される第1主題の冒頭動機。
緊張感が漂い気迫を感じる雰囲気の第1主題。
第2主題が現れ右手で奏される高音の調べは清楚で可憐な趣。
コーダでの新しい旋律が静かに奏され閉じられる第1楽章。
この楽章では気を抜いて耳を傾けること許さない(?)ような、第1主題の魔力の虜に。

第2楽章は主題と5つの変奏からなっているそうです。変奏番号は付いていないとのこと。

静かで柔和な雰囲気の主題で始まる第2楽章。
夢幻的な世界に足を踏み入れたような雰囲気。
ゆったりと静かな佇まいの調べ。
低音域の響き、高音域の清澄な音色が醸し出す調べ。
気が付くと第1番目の変奏に。
主題が簡素で素朴な雰囲気を醸し出しつつ変奏され惹かれるものがあります。
5つの変奏を聴きつつ各変奏で印象に残るのは
楽しげな雰囲気も漂っているような3番目の変奏。
4つ目の変奏の活発な趣。右手は戯れを連想されるような。
最後の5つ目の変奏では低音域の細かい伴奏に右手の流麗な動きが印象的。
続くトリルがからコーダに。
クレッシェンドの盛り上がり、そして現れる主題。
一音一音を噛みしめるかのように奏され静かに迎える曲の終わり。


曲が終わっても第1楽章の第1主題の旋律が脳裏で響き続けるかのような強い印象を受けます。
対照的な第2楽章。
繰り返し聴きたくなる楽章です。

今回、主として聴いたアラウの演奏は1985年の録音とのことですので、82歳頃でしょうか。
旧録音は1965年だそうですので、ちょうど20年の月日を経ての録音。
このソナタも新旧で聴きつつも明瞭に区別することは私にはできそうもありません。

新旧の2種の演奏の間の20年の時間の差が先入観となり感想に紛れ込む可能性を案じつつ以下に。
新録音では音の輪郭がスッキリしていて聴き易く感じるようです。
旧録音では伸びやかさを感じる演奏。
第1楽章、第1主題の気迫と精力的なタッチ。
アラウはこのソナタでもフォルティシモを強く叩き付けるタッチではなく丁寧な音作りが心に残ります。
第1主題と第2主題の対比も素晴らしいタッチで、一音一音から表情が感じられるよう。
耳を傾けつつ、旧録音でも闊達に楽想を生き生きと再現する精力的なピアニズム。
聴いている最中にふと「新、旧、どちらの演奏を聴ているのだった?」となることも。
第2楽章での静かで穏やかな優しい歌。温か味を感じるピアニズム。
旧録音より20年を経た新録音では深みも増しているような(先入観?)。

ベートーヴェンの最後のソナタ。
アラウにとっては年齢的にも「最後の録音」となることを内心意識しつつ演奏をしていたのだろうか、と考えてしまうことも。
アラウの紡ぎ出すソナタ第32番。
新旧ともに、アラウの真摯で誠実な語りかけを聴く想いで耳を傾けていました。
今日は6月9日。1991年6月9日、アラウ逝去。
偶然にもアラウの祥月命日のようです。

シリーズとしては今回で一旦、終了しますが、苦手だったベートーヴェンのピアノ・ソナタがお気に入りのジャンルになりました。
これからも顔を出すことになりそうです。
シリーズ中にお寄せ下さいましたコメントの一つ一つに心から感謝をしています。
お寄せくださいましたコメントにより他のピアニストの演奏を知りディスクを求めることもできました。
ソロモン、ギレリス、イヴ・ナット、そして最近のニコラーエワとの出合いもコメント、ブログのお陰です。
ありがとうございました。
これからもベートーヴェンのピアノ・ソナタは弦楽四重奏曲とともに聴き続けてゆきたいと思っています。

                 
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第32番 アラウ ルドルフ大公 ブレンターノ

21:17  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

2018.06/02(Sat)

Op.442 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第11番」 by ニコラーエワ

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」を続けている間にすでに6月になってしまいました。
今年も半分が過ぎようとしている時間の経過の速さ。
私の脳内カレンダーでは、現在はまだ2月か3月頃。
現実の時間は2-3倍の速さで進み驚き、慌てるばかりです。

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」
今回は第11番、作品22を。
タチアナ・ニコラーエワのピアノです。
初期のピアノ・ソナタでは最後の曲であり、当拙ブログで初期のソナタの中では唯一未登場かと思います。

ニコラーエワのBox を知ったのは、いつもお邪魔をさせていただいているブログです。
ベートーヴェンピアノ・ソナタ全集だけの再発売を待つつもりでいましたが
やはりニコラーエワの演奏を聴きたいとの想いは募るばかりの月日。
手元に届き、初めて耳にするニコラーエワのピアノ。
最初に聴いたのはお目当てのベートーヴェンピアノ・ソナタではなく
収録曲の中で最も耳に馴染みのあるバッハの「ゴルドベルク」。
今まで聴いてきた「ゴルドベルク」からは受けることがなかった感銘。
一音、一音がまるで噴水の滴が陽光を受け煌めいているような美しい音色。
惹き込まれるピアニズム。美しさを感じる「ゴルドベルク」。
求めて本当に良かったと思っています。
さて、お目当てだったベートーヴェン
今回の第11番から聴いてみました。
ベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタの締め括りの第11番はニコラーエワで。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第11番
ニコラーエワ~The Art Of Tatiana Nikolayevaより

442ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第11番 ニコラーエワ The Art Of Tatiana Nikolayeva
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第11番 変ロ長調 Op.22
ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調 Op.26
ピアノ・ソナタ第13番 変ホ長調 Op.27-1
ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調月光」 Op.27-2

タチアーナ・ニコラーエワ(P)
(録音:1984年1月 モスクワ音楽院大ホール ライヴ)


第1楽章:Allegro con brio 変ロ長調 4/4拍子
第2楽章:Adagio con molta espressione 変ホ長調 9/8拍子 
第3楽章:Minuetto 変ロ長調 3/47拍子
第4楽章:Rondo: Allegretto 変ロ長調 2/4拍子


作曲されたのは1799年から翌1800年に完成したそうです。
1800年の夏、ウンターデ―プリングで纏められたと推測されるとのこと。
このソナタは作品18の弦楽四重奏曲などと並行して書かれたそうです。
ベートーヴェン、29歳から30歳頃でしょうか。
このソナタ第11番は出版に際しベートーヴェン自身により「大ソナタ:Grande Sonate」と名付けられていたそうです。

ベートーヴェンはライプツィヒの出版業者ホフマイスター宛ての1800年12月25日付けの書簡で新作を列記し、その一番最後にこのソナタ第11番が記されていたそうです。
曲の出来栄えについてはベートーヴェン自身は満足をしていたそうで、同じくホフマイスター宛ての翌1801年1月15日付けの書簡で新作に各々値段を付けた折に「このソナタは素晴らしいものです」と書き加えていたとのことです。

出版は1802年3月、ホフマイスターにより行われたそうです。
献呈はヨハン・ゲオルグ・フォン・ブラウン伯爵に。
自筆譜は紛失したとのこと。


ニコラーエワで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第11番

躍動感のある第1主題の冒頭で始まる第1楽章。
第1主題は冒頭に明快な動機をもち、後半楽節は対照的な快いながれと冒頭動機によってできているとのこと。
克明に刻まれるリズムは鍵盤のダンスのような。
躍動的であり溌剌とした主題。
第2主題では柔和な雰囲気も。
コーダを置くことなく楽章は終わっているとのこと。
終始、生き生きとした躍動感に溢れたエネルギッシュな楽章でしょうか。

第2楽章について音楽評論家のパウル・ベッカーは「ロマン派のノクターン」を連想しているとのことです。
左手で奏される和音に乗り右手の歌うような旋律で始まる第2楽章。
穏やかな抒情性を湛えた旋律。
ロマンティックな趣でベートーヴェンの作品を聴いていることを忘れてしまいそう。
第2主題も同様の趣。
装飾的で華麗な雰囲気が漂う主題。 
寂寥感を帯びたような夢想的なピアノの歌のような楽章でしょうか。
夢見つつ、速度を緩め静かに閉じられる第2楽章。

軽やかなメヌエット主題で始まる第3楽章。
中間楽節では低音域が力強く現れ、再びメヌエット主題に。
親しみやすい主題。 
トリオになり力強く活気を帯びて。
左手は音を刻みつつ流れるように。
再びメヌエットに戻り奏され閉じられる第3楽章。

優しげで軽やかなロンド主題の調べで始まる第4楽章。
第2主題の幻想曲風な趣。
左手が奏するスタッカートが合図(?)のようになり
新しい主題の出現。
経過部以降は楽章の頂点が築かれるようなドラマティックな趣。
軽やかな内にも力が込められ迎える曲の終わり。


この第11番がベートーヴェンの初期のソナタの締め括りになる曲だそうです。
初期のソナタはいずれも翳りがなく、若々しい感情、生気に溢れているようです。
このソナタからもまた若いベートーヴェンの明るく、生き生きとしたエネルギッシュさを感じるようです。
曲が書き始められたのはベートーヴェンが郷里のボンからウィーンに移り住むようになってから約7年後でしょうか。
初期のピアノ・ソナタの一曲一曲に将来への希望に満ち溢れる青年ベートーヴェンの心を垣間見るようです。

初めて耳にするニコラーエワの演奏によるベートーヴェンのピアノ・ソナタ。
第1楽章の生き生きとしたエネルギッシュな躍動感を奏するニコラーエワの右手と左手の生気溢れる対話。
明晰なピア二ズムに息を呑む想いがします。
他の楽章とは異質のような第2楽章の内省的、微妙な感情を織りなすニコラーエワのタッチは自身への語りかけのようにも。
第3楽章のメヌエット主題の優しい調べを滋味溢れるタッチで歌うニコラ―エワ。
第4楽章では特にロンド主題を奏するニコラーエワに第1楽章と同じように息呑んでしまいます。
このソナタに耳を傾けつつ、楽想とニコラーエワのピアニズムの虜に。
途中で曲を止めることのできない惹きつけるものを感じていました。
演奏から伝わる「熱気」はライヴ故のものでしょうか。
楽想を超えるような熱気のある第11番のように感じられます。

前置きと重複しますが、このBoxより最初に聴いた「ゴルドベルク」。
ニコラーエワが紡ぎ出す美しいピアノの音色に感嘆をしたほどです。
ベートーヴェンでもソナタ全集はライヴとのことですが、セッションと変わらない音色の美しさに感じ入ってしまいます

こちらのBoxに収録されているベートーヴェンのソナタ全曲は
9枚のディスクに後期作品以外は番号順に収録がされており
曲が探し易く、また聴き易く感じます。
ベートーヴェンの他にバッハの「平均律」の第1巻、第2巻、そして「フランス組曲」「イギリス組曲」「ゴルドベルク」等々、曲名を見ては喜々としています。
最初に聴いた「ゴルドベルク」は末永く印象に残る演奏になりそうです。
私にとっては苦手で、ほとんど聴くことのないショスターコヴィッチ。
5枚のディスクに収録されている「24の前奏曲とフーガ」はニコラーエワが初演をしたとのことですが・・・耳を傾ける日は来ないような予感も・・・。

ニコラーエワの演奏をするベートーヴェン、バッハをじっくり、ゆっくりと。
ニコラーエワに出合うことができ感謝です。


蛇足。いつものオバサンの井戸端会議。
ニコラーエワについて自分のメモとして。ショップ・サイトの記述を参照しつつ。

タチアーナ・ニコラーエワ(Tatyana Nikolayeva 1924年-1993年)
1924年5月4日、ロシア東部、ブリャンスクにて誕生。
母親からの手ほどきを受け、13歳でモスクワ音楽院ピアノ科に入学。
アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼルに師事。
卒業後には同音楽院教授エフゲニー・ゴルブレフから作曲を学ぶ。
1950年 ライプツィヒでの第1回バッハ国際コンクールで優勝。
      世界各国で本格的な演奏活動を開始。
1955年 ソビィエト連邦国家賞受賞。
1959年からモスクワ音楽院で教鞭を執る
1965年 モスクワ音楽院教授に就任。後にロシア共和国功労芸術家の称号を授与される。
1993年 サン・フランシスコでのリサイタル中に脳動脈瘤破裂により収容先の病院にて死去。
     69歳。
                                  (以上です)

                
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ ニコラーエワ バッハ ゴルドベルク

21:25  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

2018.05/26(Sat)

Op.441 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第6番」 by ギレリス

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
初期のピアノ・ソナタ作品10の3つのソナタのうち
作品10-1、第5番は1昨年の10月にシュナーベルで
作品10-3、第7番は2カ月ほど前にソロモンの演奏で当拙ブログに登場をしていました。
今回は作品10-2、第6番をギレリスのピアノで聴いてみました。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第6番
ギレリスベートーヴェン ピアノ・ソナタ選集より

483:ベートーヴェン:ピアノソナタ第17番「テンペスト」ギレリス~ベートーヴェン・ピアノソナタ集より
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 Op.10-1
ピアノ・ソナタ第6番 ヘ長調O p.10-2
ピアノ・ソナタ第7番 ニ長調 Op.10-3

エミール・ギレリス(P)
(録音:第6番 1973年)


第1楽章:Allegro ヘ長調 2/4拍子 
第2楽章:Allegretto へ短調 3/4拍子
第3楽章:Presto ヘ長調 2/4拍子


作品10の3つのソナタについて以前の記事のコピーのようになりますが
いつものように自分の復習を兼ねて。

作品10の3つのソナタの作曲時期についての明確な年代は不明だそうです。
ノッテポームはソナタの主題のスケッチから判断をして1796年から98年夏までの間に
3曲が完成されたと推定をしているとのことです。
近年の研究では異説もあるとのこと。

作品10-1、第5番と作品10-2、第6番はベートーヴェンとしては初めての3楽章構成であり
作品10-3、第7番は4楽章構成に戻り大きな音楽になっているそうです。
各曲、内容的には
第5番、6番はきびきびとした楽想
第7番は劇的でロマンティックな曲とのこと。
ベートーヴェンがいろいろなソナタを古典的簡潔さと内容に充実を考え合わせながら既成の様式を抜け出して行こうとする姿勢が現れているそうです。

ソナタ第5番が第3楽章に相当する部分を省略した3楽章構成になっているのに対し
このソナタ第6番は第2楽章に相当する緩徐楽章が省略され3楽章構成になっているとのことです。
この曲のように独立した緩徐楽章のないソナタの形は、工夫をされ以降のピアノ・ソナタやチェロ・ソナタで素晴らしい傑作を生むことになったそうです。

作品10の3つのソナタはブラウン伯爵夫人アンナ・マルガレーテに献呈されているそうです。
夫人は夫のヨハン・ゲオルク・ブラウン伯爵ともども、若いベートーヴェンの熱心な支持者だったとのこと。
尚、ベートーヴェンは伯爵に弦楽三重奏曲(作品9の3曲)を献呈しているそうです。
伯爵夫人は1803年5月13日にウィーンで他界。
ベートーヴェンはその死を悼み歌曲集「ゲレルトによる6つの歌」を作曲し 伯爵に贈ったとのことです。

出版は1798年9月、ウィーンのエーダーにより行われたそうです。
自筆譜は紛失したとのこと。


ギレリスで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第6番

第1楽章。ソナタ形式。
跳躍をするような明朗で軽快な第1主題で始まる第1楽章。
第2主題は第1主題の延長のような趣。
続いて現れる新しい主題。
この主題の調べの美しさ。惹かれます。
この主題の変奏を経て現れる第1主題。
小結尾は穏やかに。
展開部での流麗な調べ。生き生き、溌剌とした雰囲気。
再現部を経て現れる第2主題。
この楽章はコーダを置いていないとのこと。
リズミカルで軽やかに、明るく、流麗な旋律が流れつつ
力を加えて閉じられる第1楽章。
楽章に流れる明るく軽妙な旋律の数々を耳に、「この曲はベートーヴェンの?」と感じてしまいました。

第2楽章は通常の緩徐楽章を省き、事実上のスケルツォ楽章になっているとのこと。
ユニゾンで奏される第1部の主題で始まる第2楽章。
低音域の響きに内省的な雰囲気が漂っているかのようです。
中間楽節で現れるスフォルツァンドは楽想のスパイスのよう。
このスフォルツァンドをギレリスは殊更に強いアクセント付けのタッチではなく(と感じられるます)、バランスの良い響き。
カノンで進む右手と左手が奏する主題に内省的なものを感じるようです。
第1部の終わりは和音を弾くようなタッチで終えてトリオに。
トリオでの柔和な調べの主題。
この主題のリピートでのスフォルツァンドは第1部とは違い強いアクセント付けをするギレリス。
緊張が走るような趣に。
第3部での第1部の再現で現れる多彩な変容。
力強いタッチで閉じられる第2楽章。

忙しげな趣の主題で始まる第3楽章。
活発で動的な趣の主題。
展開される主題は華麗な雰囲気に。
そして現れる第2主題。
この主題は第1主題を材料とし独立性はなく、また小結尾の役割を兼ねているとのこと。
跳躍感満点。
動的でエネルギッシュな旋律。
展開部、再現部も終始、休むことなく動き続ける音符たち。
この楽章も前楽章同様にコーダを置くことなく再現部がコーダを兼ねているとのこと。
華麗な趣のうちにクレッシェンドし力強く迎える曲の終わり。


第6番は初めて聴いたような・・・これまた記憶が定かではありません。
第1楽章には初めて耳を傾けたのにも関わらず、懐かしさのようなものを感じてしまいます。
始めは何気なく耳を傾けていた第2楽章。
改めて聴き込み魅力を感じる楽章になっていました。

この曲に耳を傾けつつ第2楽章の緩徐楽章はスケルツォに。
コーダを置かない第2、第3楽章。
曲の構成に戸惑いを感じつつ聴いていましたが第3楽章に至り、気が付けば曲に惹き込まれていました。

ギレリスのピアニズムにはこの曲でも魅了されるばかり。
第1楽章では明朗な軽快さの旋律を、強弱の微妙な変化を克明なタッチで奏される表情の豊かさ。
軽やかで愛らしさを感じさせるピアニズム。
第2楽章で関心を抱いたスフォルツァンドの扱い。
同じ楽章内でもスフォルツァンドのアクセントの強さの違いが楽想を豊かにしているかのよう。
また強いタッチの個所でも、単に力強いタッチで表現をするのではなく、キーを軽く弾くような切れの良いタッチ。
第3楽章の動的でエネルギッシュさを奏するタッチにはため息が出るほど。
動的、軽やか、淀みなく進むギレリスのピアニズムに魅了されるのみです。

ギレリスへの形容「鋼鉄のピアニスト」、と嘗て耳にしたイメージはこの曲でもまったく感じることはありませんでした。
一曲、一曲、ベートーヴェンのソナタを聴いているうちに
ギレリスのタッチの繊細な動き。キーを操る自在な運指。
特に第3楽章では息を呑むような想いに。
改めてギレリスのピアニズムに惹かれるばかりです。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴き続ける昨今。
私にとってのお気に入りの三大(?)ピアニストはアラウ、ソロモンそしてギレリスになったようです。

ベートーヴェン独特(具体的にどのような?と自問をしても答えられないのですが)のピアノ・ソナタの魅力は、既にこの第6番でも豊かに花開いているように感じられます。

                 
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ ギレリス

20:28  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2018.05/19(Sat)

Op.440 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第4番」 by アラウ(旧録音)

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
初期のピアノ・ソナタより作品2-2の第2番 そして 作品2-3の第3番と聴いてきました。
今回は第4番をアラウの1960年代の旧録音より。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第4番
アラウベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集(1960年代、旧録音)より

416ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第10番 アラウピアノ・ソナタ全集(1962~66)
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ:第3番 ハ長調 Op.2-3(録音:1964年4月)
ピアノ・ソナタ:第4番 変ホ長調 Op.7(録音:1964年4月)
ピアノ・ソナタ:第19番 ト短調 Op.49-1

クラウディオ・アラウ(P)


第1楽章:Allegro molto e brio 変ホ長調 6/8拍子
第2楽章:Largo con gran espressione ハ長調 3/4拍子
第3楽章:Allegro 変ホ長調 3/4拍子
第4楽章:Rondo:Poco allegretto e grazioso 変ホ長調 2/4拍子



作曲年代についてははっきり分かっていないそうでが、文献を総合し1796年から翌97年にかけて作曲されたという結論とのことです。
ベートーヴェンは26-7歳でしょうか。
このソナタ第4番では作品2よりも形が一層大きくなり、内容も力感を供えてきているそうです。
楽章構成は作品2と同じく4楽章構成とのこと。

献呈はケグレヴィッチ伯爵令嬢アンナ・ルイーズ・バルバラに。
ケグレヴィッチ伯爵はハンガリー出身だそうです。
令嬢バルバラは才能豊かなピアニストであり、当時ベートーヴェンの弟子だったそうです。
ベートーヴェンはこのソナタの他にピアノ協奏曲第1番、1802年に書かれた作品34の「6つの変奏曲」(ヘ長調)等の作品を彼女に捧げているとのこと。
このソナタは当時「Die Verliebte:愛する女」と呼ばれたそうですが、ベートーヴェンの恋愛とは無関係で、この形容は曲の優雅な気分が当時の人々にとっては相応しいものと思われた、と推測ができるようです。
バルバラは1801年2月にオデスカルキ侯爵と結婚し1813年に他界したそうです。

出版は1797年10月 ウィーンのアルタリア社から。
自筆譜は紛失したとのことです。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第4番(旧録音より)

第1楽章:ソナタ形式
この楽章は若いベートーヴェンの大きな感情の振幅を表した雄大な音楽とのことです。
この第4番では劇的な生命感を吹き込もうとする意図が明瞭に現れてきているそうです。
しかし中期のようなはっきりとした効果を生むところまでは行っていないそうですが、曲の底に流れる熱いものを感じることができるとのこと。

第1主題の左手が刻む速いリズムが奏され始まる第1楽章。
この第1主題の動機、右手による調べには流麗な趣が。
弾力を感じさせる第2主題。
この主題がフォルティシモの力強い盛り上がりになり情熱的な高揚を感じるようです。
ピアニシモで静かに奏され始める新しい動機が印象的。
小結尾でのアルペッジョの美しさもまた印象的。
短い展開部では第1主題が展開され、そして第1主題第2主題を扱う再現部を経てコーダ に。
コーダでは第1主題と第2主題が現れ華々しい活力を感じさせつつ閉じられる第1楽章。

第2楽章:三部形式。
充実した響き、多様な色彩感、深い情緒を備えた楽章だそうです。
作品2の緩徐楽章よりも更に一層成熟したものになっているとのこと。

しっとりと静かな歩みの主題で始まる第2楽章。
物想うかのような内省的な雰囲気も織り込まれているよう。
中間部では左手のスタッカートに乗り現れる主題。
闊歩し前進するようなスタッカートの伴奏が印象的。
一貫して左手はスタッカートの伴奏、右手が刻む歯切れの良い旋律。
ピアニッシモで初めの主題が右手の高音で美しく奏される調べが印象的に耳に響きます。
第2部の重厚さ、重々しさ。
コーダでは中間部の主題と第1部の主題が現れ静かに消え入るように終わる第2楽章。

愛らしさを湛えた優しい調べの主題で始まる第3楽章。
第1部の愛らしく優しい主題。
柔和で平和な趣に溢れているような調べ。心に残る主題です。
トリオでは趣が変わり活発に。激しさも感じるようです。
トリオが終わり第1部の反復を経てカノン風の旋律で閉じられる第3楽章。

第4楽章:ロンド
優美なロンド主題で始まる第4楽章。
左手が力を感じさせる低音を切れ味良く奏し、短く音を刻む右手。
左手と右手の活発な応答。
現れる第2主題では活躍するトリルと低音域の動きの対照に耳を惹かれます。
第3の主題は漲る力を感じさせるよう。
コーダで現れるロンド主題。
盛り上がりを経て静かに平穏に迎える曲の終わり。


前回、作品2-3の第3番を聴き、音楽が一回り大きくなっているように感じました。
この第4番では、第3番よりも更に一層拡大された音楽として感じられます。
新しい作品の誕生とともに大きな成長を感じさせるベートーヴェンのピアノ・ソナタ。
そのような変化、変貌が初期のピアノ・ソナタに耳を傾ける時の「期待」「楽しみ」のようになってきました。
このソナタ第4番のダイナミズム、雄大さ。対する抒情性や愛らしさ。
耳を傾けつつ初期のピアノ・ソナタであることを忘れてしまうようです。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴く時、迷う折にはシュナーベルで聴き
他にはアラウとソロモンが鑑賞の主流となってきている昨今です。
今回は時間の制約にてアラウの旧録音のみを聴いてみました。
このソナタを聴き終え、新録音の方も聴きたいとの想い、他の演奏者でも聴きたくなってきました。

アラウのタッチ。
随所に煌めいているように感じられるピアニズムはいつものことでしょうか。
第1楽章では特に小結尾でのアルペッジョの美しさに耳を奪われておりました。
解説書の活字を通して想い描く曲よりも、アラウの演奏にはいつもの落ち着きがあり、過度な感情表現はなく、端正で穏やかな楽想になっているように感じられます。
アラウの演奏に魅力を感じる要素の一つを感じます。
第2楽章での主題を奏するアラウのピアノからは静かな楽想ながら一音一音のタッチから堅固な意思を感じさせるような強さ。
第3楽章では愛らしく優しい主題を愛でるかのように優しさの溢れたピアニズム。
第4楽章での勇壮さ、雄大な趣を感じさせるタッチ。
生き生きとしたアラウのタッチはこのソナタの溢れ出る楽想を感じさせるようです。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第4作目、作品番号7 を与えられてた第4番のソナタ。
新たに生み出されるベートーヴェンのピアノ音楽への前進。
そして新たな光彩を放つ第4番。
楽想とともにアラウの演奏にも魅了されている今日です。

                
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ アラウ

20:36  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

2018.05/12(Sat)

Op.439 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第3番」 by ソロモン

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
前回の作品2-2、第2番に続き、今回は作品2-3、第3番を聴いてみました。
演奏はソロモン
ソロモンの廉価盤Boxからです。

前置きが長いこのブログ。今日は殊更に長い前置きになりそうです。
今週に入りベートーヴェンの作品、と言うよりクラシック音楽にじっくりと耳を傾けることができたのは、やっと昨夜になってからでした。
ふとしたキッカケでイージー・リスニングばかりを聴いていた日々。
急にベートーヴェンを聴きたくなった昨夜。
そのような時には必ず弦楽四重奏曲。
ハンガリー四重奏団の演奏で第5番を聴き、続いて第6番。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を聴きつつ久々振りに感涙の心境に陥ってしまいました。
心底「やはりベートーヴェンは良いなぁ」と痛感をした昨夜。
ベートーヴェンの音楽に委ねるひと時の安心感、安堵感。
大げさな言い方ですが生き返ったようでした。
まったく別のジャンルの音楽に接し、改めてベートーヴェンの素晴らしさ
自分にとって絶対に切り離すことができない音楽は何なのかを痛感しました。
生きていることの素晴らしさを感じさせてくれるベートーヴェンの音楽、クラッシック音楽。
このような経験は初めて。
今までは、当たり前、当然のように聴いていたクラシック音楽。
今回は感慨深く、感無量の心持ちでベートーヴェンのピアノ・ソナタ第3番に耳を傾け始めました。
かなり長い前置きになってしまいましたが、自分の心の軌跡として。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第3番
ソロモンソロモン名演集より


439 ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第3番 ソロモン ソロモン名演集より
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ協奏曲第1番 Op.15(ハーバート・メンゲス&フィルハーモニアO.1956年録音)
ピアノ・ソナタ第3番 Op2-3(1951年録音)


第1楽章:Allegro con brio ハ長調 4/4拍子
第2楽章:Adagio ホ長調 2/4拍子
第3楽章:Scherzo Trio::Allegro ハ長調 3/4拍子
第4楽章:Allegro assai ハ長調 6/8拍子


作品2の3つのソナタについては前回のコピーになりますが再度。

作品2の3つのソナタが作曲されたのは1793年から1795年にかけてだそうです。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ32曲の最初に位置する作品2。
ベートーヴェン、23歳から25歳にかけてでしょうか。
作品2の3曲が書かれる前年、1792年にベートーヴェンはハイドンに弟子入りを
するために11月10日にウィーンに到着したそうです。

作品2にはすでにベートーヴェンの個性が深く刻印され
当時のピアノ・ソナタの一般様式を踏み越えた音楽になっているそうです。
作品2の3曲は4つの楽章からなり形式的には定型通りのピアノ・ソナタとのことですが
音楽としてはそれぞれが性格的であり3曲はまったく異なった趣を持っているとのこと。
これらの曲は音楽が類型的な枠の中で書かれることが普通だった時代に於いては 常識を破っている、と言えるそうです。

3つのソナタの特徴、性格
第1番は作品2の3つのソナタの中では一番悲劇的な情緒
第2番、3つのソナタのうちでは最も晴れやかな明るい美しさ
第3番、規模が大きく、ピアノ技巧も華麗な曲
とのことです。
       (以上、前回の引用)

さて、今回の作品2-3、第3番は
作品2の中では一番規模が大きく、ピアノ技巧も華麗で、当時のベートーヴェンの意気揚々とした気概が映し出されているそうです。
これまでに蓄積されたきたベートーヴェンのピアノ音楽の技巧もこの第3番のソナタの中に盛られ尽くされているような作品とのこと。
大木正興氏によると
「このソナタ第3番は1795年頃のベートーヴェンの最も張りきった姿であり、音楽には前進的な気分が脈々と流れ続けており、それを遮るような暗い運命の声はどこにも聴かれない」とのことです。
聴いていても確かに前途のベートーヴェンを待つ運命の暗い影はまったく感じられません。
ベートーヴェンがこの後、辿ることになる年月、事象を想うと、この曲の明るさ、軽快さが痛さを伴い感じられてしまうことも。

ベートーヴェンの創作精神は対照的な2つのものを生む出すように働いていたそうです。
ピアノ・ソナタに於いては対照的な2つのものとして「悲愴」と「熱情」に対し「ワルトシュタイン」。
作品2-1の第1番のソナタが後の「悲愴」や「熱情」に通じるのに対し
このソナタ第3番は「ワルトシュタイン」の方向を示唆している
ということがしばしば指摘されているそうです。


ソロモンで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第3番

第1楽章、ソナタ形式。
溌剌とした躍動を感じさせる第1主題で始まる第1楽章。
前進あるのみ、という趣。力強い躍動で進む第1主題。
華やかな経過部を経て現れる新しい旋律。
盛り上がりを経て現れるもう一つの優美な趣の旋律。
経過部の後に現れるこれら新しい2つの旋律は前者がト短調
後者がト長調の優美な旋律とのこと。
後者の旋律は規則通りに言えば第2主題だそうですが、実質的には2つの旋律はともに並んで主題的なはっきりとした性格を持っているとのことです。
(脱線をしてしまいますが、この2つの旋律について。
1785年、ベートーヴェン15歳。宮廷オルガ二ストに就任した年にボンでベートーヴェンが作曲したピアノ四重奏曲ハ長調WoO.36。
WoO.36-1、2、3 の3曲があるようですが、ハ長調はWoO.36-3 のようです。
このピアノ四重奏曲の第1楽章からの転用とのことです。
ピアノ・ソナタへ短調作品2-1にも、ピアノ四重奏曲の第2楽章の主題を使用しているとのことです。)
第1楽章の続きです。
華麗な小結尾を経て展開部に。
展開部も華やかな趣のアルペッジョが奏され
展開される第1主題には凛とした雰囲気とともにユーモラスさも感じてしまいます。
再現部を経て迎えるコーダ。
このコーダは非常に長いものになっているそうです。
華麗なコーダ。
始めにアルペッジョが奏され、カデンツァもまた華麗に。
次に現れる第1主題を経てドラマティックに力強く。
ソロモンのピアノは一歩一歩を力強く踏みしめるかのように奏され強い意志のようなものを感じます。
力強く閉じられる第1楽章。

第2楽章、自由なロンド形式。
ゆったりと優しく柔和な調べのロンド主題で始まる第2楽章。
美しい歌を感じさせる主題。
この主題の旋律が耳に入った途端に惹き込まれてしまいます。
続く第2主題は左手と右手の親密な対話のよう。
左手が細やかに奏される中、現れる高音域の美しい調べ。
瞑想的な美しさを感じて聴き入っていると、フォルティシモで現れるロンド主題の冒頭動機。
そして現れる第2主題。
抒情的、詩情豊かな雰囲気が漂い魅了されます。
コーダも静かな調べ奏され閉じられる第2楽章。
詩情豊かな美しさと静かな佇まいの印象的な楽章でこのソナタの中ではもっとも心に残ります。

第3楽章、スケルツォ。
軽やかな主題で始まる第3楽章。
軽やかに闊歩するようなソロモンのピアノ。
時折、響く左手の低音域がスパイスのよう。
中間楽節では左手が奏する響きに右手の高音域が伸びやかな動きを。
トリオでは目まぐるしい動きに。
アルペッジョの3連音で忙しげでありつつも生き生きとした趣。
静かなコーダで消えるように閉じられる第3楽章。

第4楽章、ロンド形式。
小刻みな動きで上昇するようにそしてスタッカートを交え軽やかなロンド主題で始まる第4楽章。
行く手に微塵の暗雲も漂うことのない明朗で軽快なロンド主題。
前途洋々な明るさに彩られている主題のように感じます。
現れる第2主題の美しい調べ。
第3主題も軽やかな明るさ。
曲の終わり近くになりトリルを伴い奏されるロンド主題の華やかさ。
華麗さの中にも力強さを湛え迎える曲の終わり。


第3番のソナタは2年程前に聴いた筈ですが、すっかり忘れていた旋律。
今回、再び聴き以前とはまったく違った曲として感じられるようです。
「第3番、こんなに良い曲だった?」と、これまたいつものパターンに。

第1楽章冒頭から惹き込まれてしまいます。
初期の曲とは感じられない充実したソナタ(と、断言できるような知識はないのですが)。
耳を傾けていると充実感を抱きます。
第4楽章の緊密に織り込まれた旋律からは気迫すら感じられるようです。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴きソロモンがお気に入りのピアニストの一人になりましたが、この第3番の演奏を聴き
今まで気付くことがなかったソロモンの新たな魅力にも触れることができたようにも感じています。
ソロモンのピアニズムがこれ程華麗に感じられるのも初めてのような気もしています。

前回、そして今回と作品2のソナタを聴き続け
今日に至るまで後回しになってしまった初期のピアノ・ソナタに
「もっと早く耳を傾けたかった」との想いを抱きました。

前書きにも綴りましたが、今週に入りクラシック音楽とは隔絶状態に鳴っていた時間に感謝しています。
ベートーヴェンが、クラシック音楽が、ソロモン他の演奏家が
すべてが新しい「音楽」として感じられる今日です。

               
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ ソロモン

21:03  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2018.05/05(Sat)

Op.438 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第2番」 by シュナーベル

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
今回はベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタより聴いてみました。
前回、作品49-1、ピアノ・ソナタ第19番を聴いた際に
作品2の3つのソナタが作曲された1795年、ベートーヴェンはハイドンの前でそれら3つのピアノ・ソナタを演奏したとのことで作品2を聴いてみたくなりました。
作品2の3つのソナタのうち作品2-1、第1番は当拙ブログに約2年程前にアシュケナージの演奏で登場していたようです。
今回は作品2-2、第2番を。
演奏は迷った末にシュナーべルで聴いてみました。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第2番
シュナーベルベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より

438:ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第19番 シュナーベル ソナタ全集
(収録曲)
ベートーヴェン 

ピアノ・ソナタ第2番 イ長調 Op.2-2
ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 Op.10-1
ピアノ・ソナタ第6番 ヘ長調 Op.10-2
ピアノ・ソナタ第7番 ニ長調 Op.10-3
(録音:1933年4月9日 アビー・ロード)


第1楽章:Allegro vivace
第2楽章:Largo appassionato
第3楽章:Scherzo:Minore: Allegretto
第4楽章:Rondo: Grazioso 


2年程前のピアノ・ソナタ第1番の時に綴ったもののコピー同様になりますが
自分のメモとして以下に。

作品2の3つのソナタが作曲されたのは1793年から1795年にかけてだそうです。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ32曲の最初に位置する作品2。
ベートーヴェン、23歳から25歳にかけてでしょうか。
作品2の3曲が書かれる前年、1792年にベートーヴェンはハイドンに弟子入りを
するために11月10日にウィーンに到着したそうです。

作品2にはすでにベートーヴェンの個性が深く刻印され
当時のピアノ・ソナタの一般様式を踏み越えた音楽になっているそうです。
作品2の3曲は4つの楽章からなり形式的には定型通りのピアノ・ソナタとのことですが
音楽としてはそれぞれが性格的であり3曲はまったく異なった趣を持っているとのこと。
これらの曲は音楽が類型的な枠の中で書かれることが普通だった時代に於いては 常識を破っている、と言えるそうです。

3つのソナタの特徴、性格
第1番は作品2の3つのソナタの中では一番悲劇的な情緒
第2番、3つのソナタのうちでは最も晴れやかな明るい美しさ
第3番、規模が大きく、ピアノ技巧も華麗な曲
とのことです。

今回の主人公、作品2-2 ソナタ第2番は
作品2の3つのソナタの中では最も晴れやかな明るい美しさを持ち
全曲を通じ青年らしい希望と素直な感情に溢れている、そうです。

献呈はハイドンに。
1795年8月にリヒノフスキー侯爵邸の演奏会でベートーヴェンは完成した作品2の3つのピアノ・ソナタをイギリスからウィーンに帰ったハイドンに弾いて聴かせたそうです。

出版は1796年、ウィーンのアルタリア社から刊行。
作品2の3つのソナタの自筆譜は紛失したとのこと。


シュナーベルで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第2番

細やかで軽妙な主題で始まる第1楽章。
主題冒頭で断片的に始まる部分ではコミカルな趣も。
快晴の空のように明るく闊達な雰囲気で進む第1主題。
印象に残る主題です。
第2主題は流麗な美しさ。
展開部で活躍する第1主題の生き生きとしつつも華麗な雰囲気。
コーダでは闊達な趣から静かになり閉じられる第1楽章。

第2楽章は発想記号に「アパッショナート」と記されていますが、激しい感情の盛り上がりはなく優美な音楽だそうです。
その頃の一般的な「アパッショナート」の概念を察することができるとのことです。

一歩一歩、歩みを進めるような主題旋律で始まる第2楽章。
ゆったりと静かな雰囲気の主題。
左手、低音のスタッカートの伴奏に乗り奏される主題の調べの美しさ。
旋律にトリルが入り美しい調べが奏された後に中間部に。
主題の展開での美しい調べには寂寥の雰囲気が漂い
内省的な趣を秘めているよう。
「アパッショナート」がこの楽章で感じられるとすると
スタカートの低音の伴奏に乗り奏される調べが一時フォルテになり
感情の高まりを感じさせるパートでしょうか。
第3部を経てコーダに。
主題による長いコーダ。
ゆっくりと、静かに、名残を惜しむかのように閉じられる第2楽章。

右手の高音が素早く軽妙に奏される主題動機で始まる第3楽章。
無邪気な戯れを想わせるような主題。
主題の後に顔を出す新たな旋律。
短く音を叩き出しているような生き生きとした趣。
再び主題が戻り、愛嬌を感じさせる戯れに。
思い切りよくスッキリと閉じられる第3楽章。

第4楽章はピアノ音楽の表現力を拡大しようとしているように
かなり高いピアノ技巧が織り込まれているとのこと。

優雅で伸びやかなロンド主題で始まる第4楽章。
華やかな調べを経て現れる第2主題も美しく。
第3主題ではリズミカルで生き生きとして躍動感のある力強さ。
最後にロンド主題が現れ明朗華麗に迎える曲の終わり。


久し振りに耳を傾けたシュナーベルの演奏。
聴きたいピアニストは多々、在り過ぎて・・・。
ディスクを前に「誰の演奏で聴こう?」と迷うときには自然にシュナーベルのディスクに伸びる手。
シュナーベルの演奏には自分自身が冷静に耳を傾けていられる気がするようです。

作品49の3つのソナタを聴いた2年程前。
当時、第2番が気に入っていました。
今も第2番の明朗で、希望を感じさせる趣が好きです。

第1楽章では輪郭の克明なピアノ・タッチ。闊達さに希望と前進をする趣を感じます。
第2楽章での優しく美しいタッチから紡ぎ出される調べには感無量に。
第3楽章の生き生きとした無邪気な音の戯れでは虜にさせるようなタッチで。
第4楽章、優雅なロンド主題を奏するシュナーベルの流麗なピアニズム。

嘗てのお気に入りは第3楽章でした。
未来への明るい希望、憧れ等々、前途洋々で人生のプラスの要素だけが感じられました。
すべてが明るい光に包まれている第3楽章に魅力を感じました。
月日が流れ幾度か聴いているうちに一番のお気に入りは第2楽章に。
以後のベートーヴェンの中期、後期のピアノ・ソナタに通じる「美」の面影がすでに感じられるようです。

曲の解説を読み、このような曲にはシュナーベルは不向き(と言っては語弊があるかと思いますが)かと思いつつ聴き始めました。
単なる自分の勝手な憂慮に過ぎないことを確認した次第。
シュナーベルのピアニズムに対する認識が改められたように思います。
やはり素晴らしいピアニスト。

嘗てシュナーベルの演奏で聴いた時に綴ったかと思いますが
シュナーベルの演奏を聴いていると常に想い出すシュナーベルの言葉があります。
史上初のベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音が行われた1932年から1937年。
録音のエンジニアとの間で試行錯誤が続いたそうです。
シュナーベルはこの録音当時のことを後に
「苦悩を経験し、絶望的な状態」、その「苦しみのために死んでしまうのではないか」と思う程だった、とのことです。
演奏を耳にする度にシュナーベルのこの言葉が想い出されます。

                
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ シュナーベル

20:43  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(5)  |  EDIT  |  Top↑

2018.04/28(Sat)

Op.437 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第19番」 by アラウ(1960年代、1980年代 2種の録音で)

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
中期のピアノ・ソナタ、作品21-90、第12番から第27番。
中期のソナタでは作品49の2曲のソナタのうち作品49-1、第19番が残ってしまったようです。
第19番にじっくりと耳を傾けるのは初めてかも知れません。

前置きが長くなりますが。
作品49の2、第20番の方は「ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」を始める以前、約2年程前の当拙ブログに登場しておりました。
ベートーヴェンの作品でお気に入りの一つ「七重奏曲」の旋律が使用されているとのことで聴きたくなった第20番でした。
当時はまだまだベートーヴェンピアノ・ソナタは私にとっては遥か遠い存在。
ディスクも全集ではシュナーベルとアルフレート・Bしか手持ちになかった頃です。
いつかアラウの演奏で聴きたいと願っていた当時。
アラウベートーヴェンの全集を入手したいと望んでいた当時。
そして現在、アラウで新旧の2種の録音で聴くことができる日が訪れ
念願の夢が実現したような嬉しさです。
第20番の方は当時シュナーベルのピアノで聴き好印象を抱いたものでした。

第19番を念願のアラウのピアノで。
脳裏から離れることのないソロモン。
ソロモンのピアノで第19番を探してみました。
作品49の2つのソナタ、第19番と第20番ともに未録音だったようです。
未練を残しつつソロモンで聴くのは諦めました。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第19番 
アラウ~デッカ録音全集よりベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集

437ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第19番クラウディオ・アラウ~デッカ録音全集

クラウディオ・アラウ(P)
(録音:旧録音 1966年; 新録音 1989年)

第1楽章:Andante ト短調 2/4拍子
第2楽章:Rondo: Allegro ト長調 6/8拍子


第20番について綴った2年程前と重複すると思いますが。

作品49の2つのソナタは1795年から1797年にかけて作曲されたそうです。
ベートーヴェン、25歳頃から27歳頃でしょうか。
ベートーヴェンのスケッチ・ブックにより、曲が着想されたのは1795年から翌年にかけてと推定されるとのことです。
曲の完成は1796年に作品49-2、第20番が先に書き上げられ
作品49-1、第19番は遅れて1797年に完成、と推定されるとのことです。
2つのソナタの献呈はないとのこと。

ベートーヴェン研究者のセイヤーなどは、曲が簡素なことや演奏の容易な点から見て
弟子の練習曲として作曲されたものと考えられているそうです。
今日でも、作品49の2つのソナタは初心者の練習用として用いられているとのこと。
練習用とは言え、大木正興氏は次のように記述しています。
「音楽としての美しさは並々ならぬもので、芸術的な馥郁とした香りを持つ佳作である」。

作品49の2つのソナタの出版は1805年1月にウィーンの美術工芸社より。
初版のタイトルは「2つのやさしいソナタ Deux Sonates faciles」とのこと。
自筆譜は紛失。

作品49の2つのソナタを作曲した前後年のベートーヴェンの状況。自分のメモとして。
1794年 24歳 J.G.アルブレヒツベルガーに作曲を師事(1月)。
         ヴァイオリンをシュパンツィヒに師事。
         エステルハージ侯やリヒノフスキー侯爵との親交が深まり
         貴族サークルにベートーヴェンの名が拡がる。
1795年 25歳 ブルク劇場の慈善音楽会でピアノ協奏曲第2番等で公開デヴュー(3月) 
         ハイドンの前で3つのピアノ・ソナタ作品2を演奏(8月)
         ハイドン主催演奏会でピアノ協奏曲第1番を演奏(12月)
         第1回プラハ旅行、リヒノフスキー候と(年末)
1796年 26歳 第2回プラハ旅行(2月)。プラハからはリヒノフスキーと別れ単独で
         ドレスデン、ライプツィヒ、ベルリンへ足を延ばし約半年に渡る大旅行。
         3つのピアノ・ソナタ作品2の出版



アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第19番

親しみを感じる第1主題で始まる第1楽章。
この主題に耳を傾けていると翳りを感じるよう。
寂しげな雰囲気を奏するピアノの歌のように感じられます。
妙に親しみを抱く旋律。
第2主題も同じような趣。
展開部は第2主題で形作られているとのこと。
再現部を経てのコーダで落ち着いた趣で静かに終わる楽章。

お茶目で愛らしいロンド主題で始まる第2楽章。
第2主題も愛らしさに華やかさが加わったよう。
ロンド主題が軽やかに奏されて切れ味のよい打鍵で迎える曲の終わりに。


作品49の2つのソナタともに演奏時間は約8分程の短いものですが
印象深い調べが心に刻まれるソナタのように感じています。

アラウは旧録音時の1966年は63歳頃、新録音時は87歳頃でしょうか。
演奏時間。ブックレットより。
旧録音:1966年  4分36秒/3分42秒
新録音:1989年  4分36秒/3分52秒

新旧2種の演奏を聴きつつ
その瞬間、瞬間に演奏家は最善を尽くしていることを想い、聴き比べ的に感想を綴ることに対し自分の僭越さ、アラウに対する失礼な気持ちを拭いきれません。
が、敢えて綴らせていただくことに。

新録音では旧録音に比べ
第1楽章では表情付けがさらに豊かになっているように感じられます。
寂寥感と明るさの対比が大きく、フォルテとピアノの差も拡がり、思索をするような雰囲気を感じます。
第2楽章ではロンド主題の愛らしさに力強さが加味されたように感じられます。
第2主題は旧録音よりも優雅な雰囲気が強く漂っているようにも。
楽章全体が活き活きとしているようです。
新旧ともに大きな違いを感じたのは
新録音では低音域が強く響きに重厚感が出ているように感じます。
そして第2楽章のコーダでしょうか。
旧録音では切れ味が鋭い終わり方。新録音では力強い打鍵での終わり。

前回、ソナタ第25番を聴いた時には新旧の演奏の相違はほとんど分かりませんでした。
この第19番では新録音では愛らしくも風格のある堂々としたアラウのピアニズムのように感じられました。

有名作品の陰になり陽の当らないような作品49の2つのソナタ。
今回、2種の演奏による第19番に耳を傾けつつ
新旧の演奏はともに有名な作品、無名(?)な作品を問うことなく
一つの作品に対するアラウの真摯さ、誠実さ。
作曲家とその音楽に対する畏敬の念を強く感じました。

               
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ アラウ 1960年代 1980年代

20:46  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2018.04/21(Sat)

Op.436 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第25番」 by アラウ(1960年代、1980年代 2種の録音で)

中期、後期のソナタ作品を行きつ戻りつをしながらの「ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
後期のソナタから再び中期に戻ってきました。
第25番のソナタを聴いて以来、今でも印象に残っている第2楽章。
今日は第25番をアラウのピアノで。
アラウベートーヴェンピアノ・ソナタ全集から1960年代の録音と
兼ねてから聴いてみたいと願っていた1980年代(1988年-1990年)に録音された2種の演奏で聴いてみました。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第25番
アラウベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集(1960年代録音)より

416ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第10番 アラウピアノ・ソナタ全集(1962~66)
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ
第10番 ト長調 Op.14-2
第11番 変ロ長調 Op.22
第12番 変イ長調 Op.26「葬送」
第25番 ト長調 Op.79
(録音:1962-66年)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第25番
アラウ~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集 デッカ録音全集より

435 ベートーヴェン ピアノソナタ第29番 アラウComplete Philips Recordings
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ
第24番 ヘ長調 Op.78 「テレーゼ」 (1990年)
第25番 ト長調 Op.79 (1990年 ライヴ)
第26番 変ホ長調 Op.81a「告別」 (1982年)
第27番 ホ短調 Op.90 (1989年)
第28番 イ長調 Op.101 (1989年)
(録音:1988年-1990年)


第1楽章:Presto alla tedesca ト長調3 /4拍子
第2楽章:Andante ト短調 9/8拍子
第3楽章:Vivace ト長調 2/4拍子


作曲されたのは1809年。
この同じ年に作曲された第24番作品78 のスケッチ・ブックに
この第25番の主題が書かれているそうです。

この2曲のソナタは雰囲気が似通っているように感じますが
第25番の第2楽章には後期のソナタから受ける美しい調べが感じられるようです。

このソナタはベートーヴェン自信が “Sonarine” と呼んだ唯一の作品とのことです。
ベートーヴェンは1810年7月21日付けのブライトコプフ&ヘルテルに送った書簡に
「ソナタ2曲(作品78と79)は別々に出版していただきたい。もし一緒に出すのだったら、ト長調(作品79)には≪やさしいソナタ Sonata fecile≫または≪ソナチネ≫と付けてください」と書き記しているそうです。
1810年11月に出版された初版のタイトルはベートーヴェンの希望通りに、このソナタ第25番は≪ソナチネ≫となっていたとのことです。
レントラー風の楽しげな第1楽章いの中で、カッコーの鳴き声のように聴こえるところから「カッコー・ソナタ Kuckou SOnate」とも呼ばれるそうです。

曲の献呈はなし。
自筆譜はチューリッヒのボドマー・コレクションに保存されているとのこと。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第25番(新旧、2種の録音)

明朗で軽快な第1主題で始まる第1楽章。
澄み渡る青空を連想するような明るく心躍る主題。
アラウの運指は踊るような軽やかさ。
経過部のアルペッジョを終え現れる第2主題。
こちらも明るい旋律の主題。
展開部では第1主題を奏する左手の低音域からは力強さが感じられるようです。
このソナタは「カッコー・ソナタ」とも呼ばれるそうですが
耳を傾けていても私にはカッコーの鳴き声には感じられず、でした。
再現部を経てコーダでも顔を出す第1主題。
楽章の終わりも軽やかに踊るように。

第2楽章は「無言歌」になぞらえることができるそうです。
メンデルスゾーンの「ヴェネツィアの舟歌」(ト短調Op.19-6)を連想させるとのこと。
34小節の短い小品的性格の音楽とのことです。

ゆったりと静かに歌い出され始まる第2楽章。
静かで優しい主題の調べ。妙に心惹かれる調べ。印象に残ります。
中間部になり左手の伴奏するアルペッジョに乗り、奏される中間主題も穏やかな表情。
第3部を経て迎えるコーダ。
このコーダには感銘を受けます。
中間部で現れた左手のアルペッジョの伴奏と第1部で現れた主題が織りなす調べのコーダ。
ジーンと心に伝わります。
美しく、哀愁を帯びた調べ。
正に美しい歌の楽章。
お気入りの楽章になりました。

愛嬌のあるロンド主題で始まる第3楽章。
すぐ現れる第2主題。
この主題はロンド主題を材料にしたものとのこと。
経過部を経てのロンド主題の愛らしい趣。
第3主題が現れ活気のある雰囲気に。
愛嬌のある楽しげな雰囲気の楽章。
スッキリと迎える曲の終わり。


今回聴いたアラウの2種の録音ですが。
1960年代の旧録音は1962年-66年。
1980年代の新録音は1988年-1990年の録音とのことです。
アラウは1903年2月16日生まれだそうですので
旧録音当時は59-63歳。
新録音当時は85-87歳頃だったのでしょうか。

演奏時間ですがブックレットによると。
旧録音: 4分54秒/3分05秒/2分04秒  10.06   
新録音: 4分57秒/3分11秒/2分07秒  10.15
以上のように記載されていました。

この第25番の2種の演奏を聴き
大きな相違を私には感じられませんでした。
強いて挙げれば第1楽章の冒頭だけが、新録音の方が旧録音よりも若干、速く感じられた点でしょうか。
全体的に感じたのは旧録音では一音一音が克明に感じられるようにも。
特に速いパッセージやアルペッジョではその傾向を感じることもありました。
アラウの年齢を先入観として抱いてしまい、以上のように感じたようにも思います。
録音年代を知らずに耳を傾ければ、私には新旧録音の区別は付かないような気もします。

新録音の第25番は1990年のライヴ録音とのことです。
1991年6月に88歳で逝去したそうですので、死の前年の録音。
ショップ・サイトの記載によると
アラウは最後まで精力的に演奏活動を続けていたそうです。
また録音も死の直前まで行っていたとのことです。
5歳でコンサート・デビューしたのち、83年間ピアニストとして生きてきたそうです。

こちらのBoxはとても気に入っています。
ディスクが作曲家ごとに分かり易く分別され、まとめてられているので一目瞭然に探しているディスクが見つかります。
Boxの画像は所有している旧ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集と同じ。
Boxのデザインは(どうでもよい事なのですが)ダイヤ柄。それが何とアラウが着用しているジャケットの色とダイヤ柄の模様とまったく同じ。

新録音の全集では第14番と第29番が未録音だったことを知り
この2つのソナタは是非聴いてみたかったと思います。
残念です。
が、例え新録音全集が未完であっても、2つの全集を遺してくれたアラウには感謝をしています。

こちらのBoxに収録されているベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集、新録音の方はまだ聴き始めたばかりです。
他の作品共々、アラウの足跡を時間をかけてじっくりと辿ってみたいと思っています。
長く楽しみなお付き合いになりそうです。

                
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ アラウ

20:44  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

2018.04/14(Sat)

Op.435 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第29番≪ハンマークラヴィーア≫」 by アラウ

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
嘗ては大の苦手だった第29番。
現在はお気に入りになった第29番です。
アラウで聴き、その後にソロモンも聴いてみました。
第29番をアラウで。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア
アラウベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より

416ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第10番 アラウピアノ・ソナタ全集(1962~66)
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第20番ト長調Op.49-2
ピアノ・ソナタ第28番イ長調Op.101
ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調Op.106「ハンマークラヴィーア

クラウディオ・アラウ(P)
(録音:1962-66年)

  第1楽章:Allegro 変ロ長調 2/2拍子
  第2楽章:Scherzo Assai vivace 変ロ長調 3/4拍子
  第3楽章:Adagio sostenuto 嬰へ短調 6/8拍子
  第4楽章:Largo 4/4拍子 - Allegro risoluto 3/4拍子 変ロ長調


半年ほど前にワインガルトナー編曲のオーケストラ版でこの第29番を聴いた時に綴ったこと等を以下、引用しつつ。

ベートーヴェンのスケッチ・ブックによると1817年11月に作曲に着手
翌1818年初めには第2楽章までが完成。
第3,4楽章は夏にメードリングの「ハフナ―ハウス」に滞在をしていた間に
ほぼ完成したようです。
ベートーヴェン47歳頃から48歳頃でしょうか。
1819年の3月には作曲も浄書もすべて終わっていたとのことです。

この曲の「ハンマークラヴィーア」という呼称の由来は
ベートーヴェンがシュタイナー社宛ての手紙に “Große Sonate für das Hammerklavier” とドイツ語で記すように指定したことによるそうです。

ベートーヴェンは1818年の夏、ロンドンのピアノ製造者ブロードウッドから優秀なピアノを贈られたそうです。
当時、英国製のピアノは性能では他を圧し優れた機構と音質を持っていたとのことです。
このソナタの第1、第2楽章はピアノを贈与される以前に作曲されており
第3,4楽章だけがブロードウッドのピアノで作曲されたようです。
因みに、ベートーヴェンは1787年にヴァルトシュタイン伯からシュタイン製のピアノフォルテを贈与されて以来、1825年に最後のものとなるC.グラーフ製のピアノを手にするまでに10種類以上のピアノを使用したとのこと。

(wikiドイツ)435ベートーヴェン ピアノソナタ第29番 August von Kloeber  Beethoven (Skizze  1818)
1818年のベートーヴェン オーガスト・フォン・クレーバー作(鉛筆画)

ソナタ第29番を作曲した当時のベートーヴェンのクレーバーによるスケッチは、メ―ドリングの自然を背景に樹下に横たわる甥カールを加えた、失われてしまった全身像の一部のためのものだそうです。
クレーバーは1818年にメ―ドリングを訪ね、数日間にわたり肖像画を描いたとのこと。
彼はまた、当時のベートーヴェンの暮らしぶりや難聴の具合についても記述を残しているそうです。

第3楽章の導入の1小節は、すでにロンドンで印刷にかかっている頃にベートーヴェンが付加したものだそうです。
ベートーヴェンがロンドンに住むリース宛ての1819年4月16日付けの手紙に、各楽章のテンポをメトロノームで指示した折に、第3楽章の導入の1小節を挿入するように依頼をしたとのことです。
また、同じくリース宛ての4月19日付けの手紙には、この曲の件の他にベートーヴェンは次のように記しているそうです。
「このソナタは苦しい事情のもとで書かれた。パンのために書くのはまったく辛いことだ」

出版は1819年9月、ウィーンのアルタリアから。
曲の献呈はルドルフ大公に。
自筆譜は紛失したとのことです。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア

力強く壮大なスケールの冒頭の動機で始まる第1楽章。
この第1主題の前半の明快さ、力強さには希望が溢れ、確固とした自信、揺るぎない決意のようなものが感じられるようです。
アラウのピアノも雄大な趣で響き渡るかのようです。
次に続く後半では穏やかな雰囲気に。
暫く続くこの第1主題の後半。
愛らしさ、柔和さが漂っているようにも感じられます。
力強くクレッシェンドをして再び現れる冒頭の動機。
冒頭動機の力強さと楽章中の強いリズムから活き活きとしたエネルギーが伝わってくるようです。
第1主題が現れ高揚すしドラマティックな趣を経て優しい歌の旋律に。
暫し続く優しい調べも第1主題が現れ勢いを伴いつつ再現部を経てコーダに。
第1主題を素材としているとのこと。素晴らしいコーダ。
息を付かせないほどの気迫。迸るエネルギー。
この楽章の交響的壮大さを総括するように閉じられる第1楽章。

第2楽章はベートーヴェンがピアノ・ソナタにスケルツォを入れたのは第18番作品31-3以来のことだそうです。
またピアノ・ソナタではスケルツォを入れたのはこの曲が最後とのこと。

活気のある明るく弾むリズムで始まる第2楽章。
トリオでは荒々しさを感じるような。
第3部を経てコーダの半ばで速度を上げ激しい雰囲気も。
スケルツォ主題が弱く奏され閉じられる第2楽章。

第3楽章は187小節に及ぶ長大なアダージョだそうです。
その大きさ、表している世界の深いことでも未曽有の規模を持つ特異な音楽とのこと。
導入部の1小節は前述と重複しますが、印刷が始まってからベートーヴェンが付加したそうです。

荘重な趣で重々しくゆっくりとした導入で始まる第3楽章。
すぐ第1主題に。
静かに奏される物想うような寂寥感。
消え入るかのようなピアノの呟き。
静かに進む調べは葬送の雰囲気のようにも。
束の間、一抹の光明が射すように。
再び、いつ果てるともなく続くピアノの呟き。
展開部では重厚な趣も。
ピアノの哀歌、悲歌のように感じられる楽章。
静かに消え入るように閉じられる第3楽章。
印象深い楽章として心に残ります。

ピアノの独り言のような序奏で始まる第4楽章。
速度の変化が多い序奏。
早いテンポの勢いで主部に。
右手と左手の呼応で始まる主部。
すぐに音力を上げ力強く。
フーガ主題開始の部分には「幾分自由な3声のフーガ」と書き込まれているそうです。
フーガは380小節に及ぶ巨大なフーガとのこと。
力強く、活き活きとしたフーガ。
エネルギーの迸りのようなフーガ。
楽章全体が迸りの音楽の印象。
コーダも壮大さを感じさせつつ力強く結ばれ曲の終わりに。


第1楽章を聴き終えて出る溜め息。
第4楽章を聴き終えて再び溜め息。
「素晴らしい」と表現するよりも「凄い」曲。
止まらない溜め息。
音楽が終わり、尚、印象の強さに溜め息は止まらず、の状態。
嘗てはベートーヴェンのピアノ・ソナタ中、このソナタには最も強い苦手意識を抱いていたことが嘘のようです。

印象的な第1楽章。
アラウは力強いパートでの渾身の力での打鍵。そして激しさ。
アラウの指先からは持ち前(?)の朴訥さも感じられ好感を抱きます。
第2楽章、コーダでのアラウの力強い打鍵から怒りの感情のようなものも。
第3楽章から受ける深い感銘を与えるアラウのピアニズム。
第4楽章のフーガもアラウのピアノを通し惹き付ける魔力のようなものを感じます。

この曲を聴きながら頭の中から終始離れることがなかったのは
リース宛てへの手紙のベートーヴェンの記述。
「このソナタは苦しい事情のもとで書かれた。パンのために書くのはまったく辛いことだ」

集中的に聴いたのはアラウとソロモンでした。
両手のバランスの良いタッチ。
殊更に力強さを強調することなく、あくまでも鍵盤を労わるかのような優しいタッチ。
優しさと流麗さ。
ソロモンからは端正に紡ぎ出された美しい第29番として伝わってきます。
特に第3楽章の悲歌、哀歌 はソロモンの演奏では胸に突き刺さるものがあります。

               
関連記事

テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ ハンマークラヴィーア アラウ ソロモン

21:01  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑
 | BLOGTOP |  NEXT