2018.04/21(Sat)

Op.436 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第25番」 by アラウ(1960年代、1980年代 2種の録音で)

中期、後期のソナタ作品を行きつ戻りつをしながらの「ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
後期のソナタから再び中期に戻ってきました。
第25番のソナタを聴いて以来、今でも印象に残っている第2楽章。
今日は第25番をアラウのピアノで。
アラウベートーヴェンピアノ・ソナタ全集から1960年代の録音と
兼ねてから聴いてみたいと願っていた1980年代(1988年-1990年)に録音された2種の演奏で聴いてみました。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第25番
アラウベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集(1960年代録音)より

416ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第10番 アラウピアノ・ソナタ全集(1962~66)
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ
第10番 ト長調 Op.14-2
第11番 変ロ長調 Op.22
第12番 変イ長調 Op.26「葬送」
第25番 ト長調 Op.79
(録音:1962-66年)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第25番
アラウ~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集 デッカ録音全集より

435 ベートーヴェン ピアノソナタ第29番 アラウComplete Philips Recordings
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ
第24番 ヘ長調 Op.78 「テレーゼ」 (1990年)
第25番 ト長調 Op.79 (1990年 ライヴ)
第26番 変ホ長調 Op.81a「告別」 (1982年)
第27番 ホ短調 Op.90 (1989年)
第28番 イ長調 Op.101 (1989年)
(録音:1988年-1990年)


第1楽章:Presto alla tedesca ト長調3 /4拍子
第2楽章:Andante ト短調 9/8拍子
第3楽章:Vivace ト長調 2/4拍子


作曲されたのは1809年。
この同じ年に作曲された第24番作品78 のスケッチ・ブックに
この第25番の主題が書かれているそうです。

この2曲のソナタは雰囲気が似通っているように感じますが
第25番の第2楽章には後期のソナタから受ける美しい調べが感じられるようです。

このソナタはベートーヴェン自信が “Sonarine” と呼んだ唯一の作品とのことです。
ベートーヴェンは1810年7月21日付けのブライトコプフ&ヘルテルに送った書簡に
「ソナタ2曲(作品78と79)は別々に出版していただきたい。もし一緒に出すのだったら、ト長調(作品79)には≪やさしいソナタ Sonata fecile≫または≪ソナチネ≫と付けてください」と書き記しているそうです。
1810年11月に出版された初版のタイトルはベートーヴェンの希望通りに、このソナタ第25番は≪ソナチネ≫となっていたとのことです。
レントラー風の楽しげな第1楽章いの中で、カッコーの鳴き声のように聴こえるところから「カッコー・ソナタ Kuckou SOnate」とも呼ばれるそうです。

曲の献呈はなし。
自筆譜はチューリッヒのボドマー・コレクションに保存されているとのこと。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第25番(新旧、2種の録音)

明朗で軽快な第1主題で始まる第1楽章。
澄み渡る青空を連想するような明るく心躍る主題。
アラウの運指は踊るような軽やかさ。
経過部のアルペッジョを終え現れる第2主題。
こちらも明るい旋律の主題。
展開部では第1主題を奏する左手の低音域からは力強さが感じられるようです。
このソナタは「カッコー・ソナタ」とも呼ばれるそうですが
耳を傾けていても私にはカッコーの鳴き声には感じられず、でした。
再現部を経てコーダでも顔を出す第1主題。
楽章の終わりも軽やかに踊るように。

第2楽章は「無言歌」になぞらえることができるそうです。
メンデルスゾーンの「ヴェネツィアの舟歌」(ト短調Op.19-6)を連想させるとのこと。
34小節の短い小品的性格の音楽とのことです。

ゆったりと静かに歌い出され始まる第2楽章。
静かで優しい主題の調べ。妙に心惹かれる調べ。印象に残ります。
中間部になり左手の伴奏するアルペッジョに乗り、奏される中間主題も穏やかな表情。
第3部を経て迎えるコーダ。
このコーダには感銘を受けます。
中間部で現れた左手のアルペッジョの伴奏と第1部で現れた主題が織りなす調べのコーダ。
ジーンと心に伝わります。
美しく、哀愁を帯びた調べ。
正に美しい歌の楽章。
お気入りの楽章になりました。

愛嬌のあるロンド主題で始まる第3楽章。
すぐ現れる第2主題。
この主題はロンド主題を材料にしたものとのこと。
経過部を経てのロンド主題の愛らしい趣。
第3主題が現れ活気のある雰囲気に。
愛嬌のある楽しげな雰囲気の楽章。
スッキリと迎える曲の終わり。


今回聴いたアラウの2種の録音ですが。
1960年代の旧録音は1962年-66年。
1980年代の新録音は1988年-1990年の録音とのことです。
アラウは1903年2月16日生まれだそうですので
旧録音当時は59-63歳。
新録音当時は85-87歳頃だったのでしょうか。

演奏時間ですがブックレットによると。
旧録音: 4分54秒/3分05秒/2分04秒  10.06   
新録音: 4分57秒/3分11秒/2分07秒  10.15
以上のように記載されていました。

この第25番の2種の演奏を聴き
大きな相違を私には感じられませんでした。
強いて挙げれば第1楽章の冒頭だけが、新録音の方が旧録音よりも若干、速く感じられた点でしょうか。
全体的に感じたのは旧録音では一音一音が克明に感じられるようにも。
特に速いパッセージやアルペッジョではその傾向を感じることもありました。
アラウの年齢を先入観として抱いてしまい、以上のように感じたようにも思います。
録音年代を知らずに耳を傾ければ、私には新旧録音の区別は付かないような気もします。

新録音の第25番は1990年のライヴ録音とのことです。
1991年6月に88歳で逝去したそうですので、死の前年の録音。
ショップ・サイトの記載によると
アラウは最後まで精力的に演奏活動を続けていたそうです。
また録音も死の直前まで行っていたとのことです。
5歳でコンサート・デビューしたのち、83年間ピアニストとして生きてきたそうです。

こちらのBoxはとても気に入っています。
ディスクが作曲家ごとに分かり易く分別され、まとめてられているので一目瞭然に探しているディスクが見つかります。
Boxの画像は所有している旧ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集と同じ。
Boxのデザインは(どうでもよい事なのですが)ダイヤ柄。それが何とアラウが着用しているジャケットの色とダイヤ柄の模様とまったく同じ。

新録音の全集では第14番と第29番が未録音だったことを知り
この2つのソナタは是非聴いてみたかったと思います。
残念です。
が、例え新録音全集が未完であっても、2つの全集を遺してくれたアラウには感謝をしています。

こちらのBoxに収録されているベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集、新録音の方はまだ聴き始めたばかりです。
他の作品共々、アラウの足跡を時間をかけてじっくりと辿ってみたいと思っています。
長く楽しみなお付き合いになりそうです。

                
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2018.04/14(Sat)

Op.435 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第29番≪ハンマークラヴィーア≫」 by アラウ

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
嘗ては大の苦手だった第29番。
現在はお気に入りになった第29番です。
アラウで聴き、その後にソロモンも聴いてみました。
第29番をアラウで。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア
アラウベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より

416ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第10番 アラウピアノ・ソナタ全集(1962~66)
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第20番ト長調Op.49-2
ピアノ・ソナタ第28番イ長調Op.101
ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調Op.106「ハンマークラヴィーア

クラウディオ・アラウ(P)
(録音:1962-66年)

  第1楽章:Allegro 変ロ長調 2/2拍子
  第2楽章:Scherzo Assai vivace 変ロ長調 3/4拍子
  第3楽章:Adagio sostenuto 嬰へ短調 6/8拍子
  第4楽章:Largo 4/4拍子 - Allegro risoluto 3/4拍子 変ロ長調


半年ほど前にワインガルトナー編曲のオーケストラ版でこの第29番を聴いた時に綴ったこと等を以下、引用しつつ。

ベートーヴェンのスケッチ・ブックによると1817年11月に作曲に着手
翌1818年初めには第2楽章までが完成。
第3,4楽章は夏にメードリングの「ハフナ―ハウス」に滞在をしていた間に
ほぼ完成したようです。
ベートーヴェン47歳頃から48歳頃でしょうか。
1819年の3月には作曲も浄書もすべて終わっていたとのことです。

この曲の「ハンマークラヴィーア」という呼称の由来は
ベートーヴェンがシュタイナー社宛ての手紙に “Große Sonate für das Hammerklavier” とドイツ語で記すように指定したことによるそうです。

ベートーヴェンは1818年の夏、ロンドンのピアノ製造者ブロードウッドから優秀なピアノを贈られたそうです。
当時、英国製のピアノは性能では他を圧し優れた機構と音質を持っていたとのことです。
このソナタの第1、第2楽章はピアノを贈与される以前に作曲されており
第3,4楽章だけがブロードウッドのピアノで作曲されたようです。
因みに、ベートーヴェンは1787年にヴァルトシュタイン伯からシュタイン製のピアノフォルテを贈与されて以来、1825年に最後のものとなるC.グラーフ製のピアノを手にするまでに10種類以上のピアノを使用したとのこと。

(wikiドイツ)435ベートーヴェン ピアノソナタ第29番 August von Kloeber  Beethoven (Skizze  1818)
1818年のベートーヴェン オーガスト・フォン・クレーバー作(鉛筆画)

ソナタ第29番を作曲した当時のベートーヴェンのクレーバーによるスケッチは、メ―ドリングの自然を背景に樹下に横たわる甥カールを加えた、失われてしまった全身像の一部のためのものだそうです。
クレーバーは1818年にメ―ドリングを訪ね、数日間にわたり肖像画を描いたとのこと。
彼はまた、当時のベートーヴェンの暮らしぶりや難聴の具合についても記述を残しているそうです。

第3楽章の導入の1小節は、すでにロンドンで印刷にかかっている頃にベートーヴェンが付加したものだそうです。
ベートーヴェンがロンドンに住むリース宛ての1819年4月16日付けの手紙に、各楽章のテンポをメトロノームで指示した折に、第3楽章の導入の1小節を挿入するように依頼をしたとのことです。
また、同じくリース宛ての4月19日付けの手紙には、この曲の件の他にベートーヴェンは次のように記しているそうです。
「このソナタは苦しい事情のもとで書かれた。パンのために書くのはまったく辛いことだ」

出版は1819年9月、ウィーンのアルタリアから。
曲の献呈はルドルフ大公に。
自筆譜は紛失したとのことです。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア

力強く壮大なスケールの冒頭の動機で始まる第1楽章。
この第1主題の前半の明快さ、力強さには希望が溢れ、確固とした自信、揺るぎない決意のようなものが感じられるようです。
アラウのピアノも雄大な趣で響き渡るかのようです。
次に続く後半では穏やかな雰囲気に。
暫く続くこの第1主題の後半。
愛らしさ、柔和さが漂っているようにも感じられます。
力強くクレッシェンドをして再び現れる冒頭の動機。
冒頭動機の力強さと楽章中の強いリズムから活き活きとしたエネルギーが伝わってくるようです。
第1主題が現れ高揚すしドラマティックな趣を経て優しい歌の旋律に。
暫し続く優しい調べも第1主題が現れ勢いを伴いつつ再現部を経てコーダに。
第1主題を素材としているとのこと。素晴らしいコーダ。
息を付かせないほどの気迫。迸るエネルギー。
この楽章の交響的壮大さを総括するように閉じられる第1楽章。

第2楽章はベートーヴェンがピアノ・ソナタにスケルツォを入れたのは第18番作品31-3以来のことだそうです。
またピアノ・ソナタではスケルツォを入れたのはこの曲が最後とのこと。

活気のある明るく弾むリズムで始まる第2楽章。
トリオでは荒々しさを感じるような。
第3部を経てコーダの半ばで速度を上げ激しい雰囲気も。
スケルツォ主題が弱く奏され閉じられる第2楽章。

第3楽章は187小節に及ぶ長大なアダージョだそうです。
その大きさ、表している世界の深いことでも未曽有の規模を持つ特異な音楽とのこと。
導入部の1小節は前述と重複しますが、印刷が始まってからベートーヴェンが付加したそうです。

荘重な趣で重々しくゆっくりとした導入で始まる第3楽章。
すぐ第1主題に。
静かに奏される物想うような寂寥感。
消え入るかのようなピアノの呟き。
静かに進む調べは葬送の雰囲気のようにも。
束の間、一抹の光明が射すように。
再び、いつ果てるともなく続くピアノの呟き。
展開部では重厚な趣も。
ピアノの哀歌、悲歌のように感じられる楽章。
静かに消え入るように閉じられる第3楽章。
印象深い楽章として心に残ります。

ピアノの独り言のような序奏で始まる第4楽章。
速度の変化が多い序奏。
早いテンポの勢いで主部に。
右手と左手の呼応で始まる主部。
すぐに音力を上げ力強く。
フーガ主題開始の部分には「幾分自由な3声のフーガ」と書き込まれているそうです。
フーガは380小節に及ぶ巨大なフーガとのこと。
力強く、活き活きとしたフーガ。
エネルギーの迸りのようなフーガ。
楽章全体が迸りの音楽の印象。
コーダも壮大さを感じさせつつ力強く結ばれ曲の終わりに。


第1楽章を聴き終えて出る溜め息。
第4楽章を聴き終えて再び溜め息。
「素晴らしい」と表現するよりも「凄い」曲。
止まらない溜め息。
音楽が終わり、尚、印象の強さに溜め息は止まらず、の状態。
嘗てはベートーヴェンのピアノ・ソナタ中、このソナタには最も強い苦手意識を抱いていたことが嘘のようです。

印象的な第1楽章。
アラウは力強いパートでの渾身の力での打鍵。そして激しさ。
アラウの指先からは持ち前(?)の朴訥さも感じられ好感を抱きます。
第2楽章、コーダでのアラウの力強い打鍵から怒りの感情のようなものも。
第3楽章から受ける深い感銘を与えるアラウのピアニズム。
第4楽章のフーガもアラウのピアノを通し惹き付ける魔力のようなものを感じます。

この曲を聴きながら頭の中から終始離れることがなかったのは
リース宛てへの手紙のベートーヴェンの記述。
「このソナタは苦しい事情のもとで書かれた。パンのために書くのはまったく辛いことだ」

集中的に聴いたのはアラウとソロモンでした。
両手のバランスの良いタッチ。
殊更に力強さを強調することなく、あくまでも鍵盤を労わるかのような優しいタッチ。
優しさと流麗さ。
ソロモンからは端正に紡ぎ出された美しい第29番として伝わってきます。
特に第3楽章の悲歌、哀歌 はソロモンの演奏では胸に突き刺さるものがあります。

               
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2018.04/07(Sat)

Op.434 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第27番」 by イヴ・ナット

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
前回は後期の最初のピアノ・ソナタ第28番でしたので
今回は逆戻りをして、中期の最期のソナタ第27番を。

ブログ仲間の御方がお寄せくださいましたコメントにベートーヴェンピアノ・ソナタで最近のお気に入りになっているのがイヴ・ナットとのことでした。
イヴ・ナットは名前しか知らず、私にとっては未知のピアニスト。
ショップ・サイトで探したところナットの15枚組 Box が目に付きました。
ベートーヴェンピアノ・ソナタ全曲他が収録されておりました。
今まで耳にすることのなかった演奏者によるベートーヴェンピアノ・ソナタ
関心と興味の虜になりつつ耳を傾けている日々です。

今回の第27番をイヴ・ナットで。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第27番
イーヴ・ナット~ザ・フレンチ・ピアノ・レジェンドより

434ベートーヴェン:ピアノソナタ第27番イーヴ・ナット~ザ・フレンチ・ピアノ・レジェンド
(収録曲)

ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 Op81a 告別」(1954年5月)
ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op90(1954年6月)
ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調Op.106「ハンマークラヴィーア」(1954年10月)

イヴ・ナット(P)


第1楽章:Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck
      ホ短調3/4拍子  速く、そして終始感情と表情とをもって 
第2楽章:Nicht zu geschwind und sehr singbar vorzutragen
      ホ長調2/4拍子  速過ぎないように、そして十分歌うように演奏すること 



作曲されたのは1814年だそうです。
1813年にライプツィヒでフランス軍が惨敗を喫しヨーロッパは大きな転換期を迎えたそうです。
ベートーヴェンは前年には交響曲第7番や第8番など充実をした大作を作曲していたそうですが、1813年(43歳)このころからベートーヴェンにも大きな変化が起きてきたとのことです。
見せかけの平和とその陰に隠れた反動勢力の中でベートーヴェンは大芸術家として祭り上げられ押しも押されない名士になったそうです。
1814年にウィーン会議が開かれる頃には各国の代表や貴族たちに取り巻かれ、ベートーヴェンの名はヨーロッパの権力者たちの間に深く浸透していったとのこと。
しかし、作曲については社会的光栄に反比例し沈滞をしたそうです。
戦争による多々の意味での打撃、最期の結婚への努力の失敗による絶望的な孤独感をくぐり抜け、もう一度、しかも前よりももっと高い所にと復活をする1816年に至るまでベートーヴェンはスランプとも呼べる時期に入ったとのこと。

このソナタ第27番は丁度その危機の最中に作曲されたそうです。
浄書された原稿には1814年8月16日と記されているとのこと。

シンドラーの伝えるところによると(シンドラーのことですので信憑性については疑問を抱きつつ)、リヒノフスキー伯爵がベートーヴェンにこのソナタの意味について尋ねたそうです。
ベートーヴェンは笑って
第1楽章は「理性と感情の戦い」、第2楽章は「恋人との会話」と答えたとのことです。

曲の出版は1815年、ウィーンのシュタイナーにより。
自筆譜はロンドンの個人が所有。
献呈はモーリツ・フォン・リヒノフスキー伯爵に。
伯爵とベートーヴェンは音楽上の友人であったそうです。
イギリスの摂政ジョージに捧げた「戦争交響曲」の報酬につき、リヒノフスキー伯爵がウィーン会議のイギリス代表に取りなしてくれたお礼として、この第27番のソナタを伯爵に献呈されたとのことです。


イヴ・ナットで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第27番

力強く躍動感のあるリズム。生き生きとした第1主題で始まる第1楽章。
穏やかな旋律に転じるのも束の間
オクターブでの上昇では空中を駆け抜けるかのような軽やかさ。そして華麗な趣。
経過句での音階風な下降のパートでは激しさも。
和音の連打に続いて現れる第2主題。
穏やかな趣の主題。
小結尾で現れる短く美しい旋律には耳を奪われてしまいます。
展開部では右手の細やかな16分音符の動きからは華麗さも。
再現部を経てのコーダでは沈み込むような雰囲気。
弱音で消え入るように静かに閉じられる第1楽章。

優美なロンド主題の調べで始まる第2楽章。
歌心に溢れたロンド主題。
第2主題も穏やかな歌。
懐かしさを感じる歌の調べです。
この楽章では終始、歌を聴いている気分に。
歌心に溢れた調べの数々。
コーダでも流れる歌。そして静かに迎える曲の終わりに。


イヴ・ナットは1951年から1956年にかけてベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を録音したそうです。
第27番も初めて耳にする曲かも知れません。
印象的な第2楽章。
懐かしさのような親しみを感じる素朴な歌の楽章のようにも感じられます。

イヴ・ナットでベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いている途中ですが
数曲を聴き感じたこと。
感情よりも作品の構築性を重視したような演奏でしょうか。
直截的で見通しの良い演奏。
地道、地味でありながらもタッチの明晰さ。
真摯にわが道を行く、そのようなものを感じます。
耳を傾ける毎に味わい深さが増してくるようにも感じています。

               
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20:20  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2018.03/31(Sat)

Op433 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第28番」 by ギレリス

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」
今回は中期のソナタから後期のソナタに飛びます。
後期作品の始めの曲、第28番を。
有名な第29番が Grosse Sonate fur das Hammmereklavier と呼ばれるのに対し
第28番は Kleine Sonate für das Hammerklavier と呼ばれるようです。
ギレリスの演奏を主として聴いてみました。 

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第28番
ギレリスベートーヴェン ピアノ・ソナタ選集より


483:ベートーヴェン:ピアノソナタ第17番「テンペスト」ギレリス~ベートーヴェン・ピアノソナタ集より
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第28番 イ長調 Op.101
ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調 Op.106「ハンマークラヴィーア」

エミール・ギレリス(P)
(選集録音:1972ー1985年)


第1楽章:Allegretto, ma non troppo(Etwas lebhaft und mit der innigsten Empfindung)
      イ長調8/6拍子
第2楽章:Vivace alla Marcia(Lebhaft. Marschmäßig)
      ヘ長調4/4拍子
第3楽章:Adagio, ma non troppo, con affetto(Langsam und sehnsuchtsvoll)
      イ短調2/4拍子
第4楽章:Allegro(Geschwind, doch nicht zu sehr, und mit Entschlossenheit)

尚、曲の楽章構成については統一されていないようですが。
第3楽章の序奏と主部の部分を一つの楽章とした3楽章構成と
第3楽章の序奏の後の主部アレグロの部分を第4楽章として扱い4楽章構成になっているものの2つがあるようです。
ここでは一応、ギレリスのディスクが4楽章構成になっていましたので準拠して4楽章構成として綴りました。
実際に数種の演奏を聴き、4楽章構成で録音されたものが聴き易く思いました。         


作品に着手されたのは1815年。
第1楽章のスケッチは今日、明らかになっていないため着手よりもだいぶ以前に楽想が蓄積されていたのではないかとも考えられているそうです。
翌1816年の夏に大部分が書かれ秋に完成されたとのことです。
完成は自筆譜によると1816年11月と記されてるそうです。
後期様式に最初に作曲されたソナタとのこと。

1815年以降のベートーヴェンは新しい創作力でチェロ・ソナタ2曲を書き
翌1816年4月には歌曲集「遥かな恋人に」
そしてピアノ・ソナタではこの第28番が続いて作曲されたそうです。

この時期、後期に相当する時期には音楽の質、内容、外観のすべてが前の時期とは変わり、深い心情が限りなく細やかなニュアンスを持ち、広大な拡がりを感じさせつつ現れてきたとのことです。
中期の作品の人間的な力と闘いの様相の激しさ。
そのような激しささえ包括する豊かな深味のある世界がベートーヴェンの内面に開けてきたそうです。
作品の表現の手法もいろいろに拡張され、きめ細やかになり、形式は自由になってきたとのこと。

出版は1817年2月にウィーン、シュタイアーより。
自筆譜はスイスのルイス・コッホ・コレクションに保存されているとのこと。

献呈はエルトマン男爵夫人ドロテアに。

(bingリンク)433ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第28番Baroness Dorothea von Ertmann
Dorothea von Ertmann
( 1781年5月3日-1849年3月16日)

ドロテアは当時一流のピアニストだったそうです。
また1803年からベートーヴェンの弟子だったとのこと。
その演奏はたいへん美しいものであったそうでシンドラー、メンデルスゾーンも賛辞を贈ったそうです。
ベートーヴェンは彼女を敬愛していたとのことで、殉教をした音楽の聖女チェチーリアに因み、「ドロテア・チェチーリア」と呼んでいたそうです。
181年2月23日付けドロテア宛ての書簡にベートーヴェンはこのソナタ第28番を彼女に捧げるにあたり次のように記しているそうです。
「兼々、あなたに差し上げようと思っていたもので、あなたの芸術的天分とあなたの人柄に対する敬愛の表明になるでしょう」
一説によると、当時愛児を失い悲しみに暮れていたドロテアにベートーヴェンがこのソナタを演奏して聴かせたとのことです。


ギレリスで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第28番

第1楽章:速度記号とともに「幾分速く、そして非常に深い感情をもって」と記されているそうです。
美しい調べの第1主題で始まる第1楽章。
ゆったりと優しく柔和な雰囲気の主題。
第2主題も第1主題と同じような趣。
第2主題では感情の起伏が豊かに表現されているようにも感じられます。
展開部そして再現部も冒頭からの楽想が一つの流れゆく旋律のようです。
再現部の終わの部分のフォルティシモはこの楽章で唯一現れるそうです。
このフォルティシモが一回奏され温和で夢見るような調べのコーダに。
静かに閉じられる第1楽章。

第2楽章:速度記号とともに「生き生きと行進曲風に」 の記。
一般的な行進曲という意味ではなく、弾むリズムに乗った幻想曲のような楽章だそうです。

軽快に弾むリズムで始まる第2楽章。
飛び跳ねるかのようなギレリスのタッチ。
幼い子供が嬉しさ、喜びを飛び跳ねて身体で表現しているような雰囲気を感じます。
高音域の弾みと左手の応答からは愉しげな雰囲気も。
耳を傾けつつ、つい口ずさんでみたい気分に。
中間部では静かな趣で始まり、暫し続くカノン。
トリルが奏され現れる主題の行進曲風なリズムで弾む躍動感に。
第3部を経て活発に弾みつつに閉じられる第2楽章。

第3楽章:「ゆっくりと、そして憧れに満ちて」との記。
第3楽章は終始弱音ペダルを使用して演奏されるとのことです。 

ゆったりと静かに奏し始められる第3楽章。
寂寥感が強く漂う調べ。
ギレリスの優しいタッチからは寂寥感が殊更、胸に響くようです。
左手に応えるかのような右手はポツリポツリと物想うような朴訥な呟きを。
その響きの美しさ。
カデンツァに入り奏される第1楽章の主題。
このカデンツァは第1楽章のテンポAllegretto, ma non troppo イ長調6/8拍子で回想されるとのこと。
トリルで奏されそのまま第4楽章に。

第4楽章:「 速く、しかし速すぎないように、そして断固として」
一転する趣。
速度が上がり切れ味鋭く凛とした趣の第1主題で始まる第4楽章。
活気のある雰囲気。
現れる第2主題は優しい雰囲気で。
再び現れる第1主題の活発さ。
展開部では第1主題によるフーガ主題の出現。
弱音を挟みつつも力強く奏されるフーガ。
このフーガに耳を傾けていると感動的な想いに。
再現部を経て迎えるコーダ。
コーダではピアニッシモで奏される愛らしい調べに和みを感じるようです。
活力が漲る力強い和音の連打。
固い意志力、気迫を感じさせつつ迎える曲の終わり。


この曲も「第28番」ということを意識してじっくりと耳を傾けるのは初めてかも知れません。
最も惹かれるのは第3楽章。
ギレリスはこのソナタでも優しく温和な打鍵。
ただただ、耳を奪われます。
第1楽章での夢見るような想いが込められた優しいタッチ。
次のキーに移る時、瞬間的に音との間の空気が感じられ印象に残るピアニズム。
第3楽章では楽想の美しさとともに
ギレリスが紡ぎ出す調べに思わずホロりと。
深く心に刻まれる第3楽章です。

端正に奏される一音一音。音の輪郭の克明さ。
不純物のない清明な音色の美しさ。
優しさ、愛らしさ。柔和、温和。
繊細な表現。
奥深さを湛えた抒情性。
ギレリスの演奏を聴いていると、ソロモンの演奏と重なるものを感じてしまいます。

第28番は幸いにもソロモンの録音が残っていましたので聴くことができました。
お気に入りになった第3楽章ではソロモンの演奏から寂寥感とともに打ちひしがれるような表情も伝わってくるようです。
録音の影響かとも思いますが、ギレリスよりも仄暗さを感じる音色。
微かに渋い趣もまた魅力の一つに。

今回はこのソナタをシュナーベルに始まり、ギレリス、アラウ、ソロモン、グード、コワセヴィッチと聴き進んできました。
この中で異例(?)に感じたのはコワセヴィッチ。
抒情性を排し、剛健さが印象として残りました。
一つ一つの演奏が魅力を感じさせるようです。
特にギレリス、ソロモンは ともに心に残る第28番になりました。

               
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2018.03/24(Sat)

Op.432 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第24番≪テレーゼ≫」 by アシュケナージ;シュナーベル

毎週、毎週「ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
いつまで続くのでしょうか。
さて、今日は第24番を。
久し振りにアシュケナージのピアノを聴いてみたくなりました。
アシュケナージで聴いた後、改めて他の演奏で聴きたく思い
シュナーベルの演奏も聴いてみました。
ソナタ第24番をアシュケナージシュナーベルの二人の演奏で。
一応、代表は始めに聴いたシュケナージに。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第24番「テレーズ
アシュケナージベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より

372(345) ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第16番 全集 アシュケナージ
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第21番ハ長調op.53『ワルトシュタイン』
ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調op.54
ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57『熱情』
ピアノ・ソナタ第24番嬰ヘ長調op.78

ウラディミール・アシュケナージ(P)
(録音:第24番 1979年)

第1楽章:(導入)Adagio cantabile 2/4拍子 – Allegro ma non troppo 嬰へ長調 4/4拍子
第2楽章:Allegro vivace 嬰ヘ長調 2/4拍子


作曲されたのは1809年。
伯爵令嬢のテレーゼ・ブルンスヴィックに献呈されたことに因み
「テレーゼ・ソナタTheresen Sonate」とも呼ばれるそうです。

第23番「熱情」が作曲された1805年、この時期からの数年、ベートーヴェンの創作力は豊かで、あらゆるジャンルにわたり幾つもの大作が書かれたとのことです。
前年の1808年には交響曲第5番、第6番、そしてこの1809年にはピアノ協奏曲第5番の作曲。
ピアノ・ソナタだけは第23番以来、手が付けられることなく4年を経た1809年になり、このソナタ第24番が書かれたそうです。

着手された時期については不明だそうですが、当時ベートーヴェンは新しい曲を自分で別に写し取りルドルフ大公に贈呈していたそうです。
そのルドルフ大公の蔵書目録の1809年10月の個所にこのソナタ第24番が書き込まれているとのことです。

1805年作のソナタ第23番を書いた頃からベートーヴェンの作品から激情さが消えつつあり、温か味のある和やかさを持つ作品が現れてきているそうです。
この第24番も愛らしく美しい音楽。

この曲が作曲された1809年にはナポレオン軍のウィーン攻撃があり、ベートーヴェンは精神的にも経済的には大打撃を受けたそうす。
ベートーヴェンは人間の強さと弱さを身に沁みて感じ、翌年には精神的安定を求めて結婚への最後の努力を試みたとのことです。
このようなベートーヴェンの内面が豪壮な趣のピアノ協奏曲第5番の傍らに、この第24番のような細やかなソナタが並んでいることも不思議ではないようです。

出版は1810年9月、ブライトコプフ&ヘルテルから。
自筆譜はチューリッヒのボドマー・コレクションに保存されているとのこと。


432ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第24番「テレーゼ」Büste von Therese Brunsvik
Therese Brunsvik
(1775年7月27日-1861年9月23日)

曲の献呈はブルンスヴィック伯爵令嬢テレーゼに。
ベートーヴェンがピアノ・ソナタ第23番「熱情」を献呈した音楽好きなブルンスヴィック伯爵の3人子供たち(Therese、Josephine とFranz )の一人であるテレーゼはベートーヴェンを取り巻く女性のうちでも重要な人物の一人だそうです。
テレーゼはベートーヴェンとはピアノの師弟関係の他、一家でベートーヴェンを快く家庭に迎え入れていたとのことです。
彼女はベートーヴェンが死去した翌年にハンガリーで託児所を創り、生涯独身のまま託児所の仕事を続けたそうです。
ベートーヴェンは最期まで彼女の肖像を秘蔵していたとのこと。


アシュケナージで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第24番「テレーゼ」

ゆっくりと穏やかに歌うような調べの導入で始まる第1楽章。
この短い導入に続いて主部に。
右手の16分音符の軽やかな伴奏で歌われる第1主題。
アシュケナージではこの16分音符の伴奏は星の煌めきのような趣を湛え印象に残ります。
第1主題の親しみを感じさせる美しい歌の調べ。
歌の後の経過部では湧き上がるような高揚感に。
第2主題が現れ第1主題と同じような美しく柔和な調べ。
展開部で再び現れる第1主題。
華麗にピアノが歌い続け凛とした趣で閉じられる第1楽章。

第2楽章は形式的にはソナタ形式とも見られ、またロンド形式にも近く独創的な形式になっているとのことです。
フォルテとピアノの対比が克明で切れ味の良い第1主題で始まる第2楽章。
右手が素早く勢いのある動きで上昇。
明るい熱気を感じさせられるようです。
再び力強く奏される第1主題。
コーダに至るまで続く力強い躍動感に満ちた高揚するような楽想。
コーダで冷静さを取り戻すかのように弱音になるのも束の間
アルペッジョになり華麗に力強く迎える曲の終わり。


第1楽章のピアノにより歌われる美しい歌。
第2楽章の躍動感溢れる活発な楽想。

久し振りに耳を傾けたアシュケナージ。
明るい音色で軽やかに舞い続けるピアニズム。
瞬発的なタッチ、軽やかで素早い運指が目に浮かぶようです。
切れ味良く颯爽と楽想を歌い上げているよう。
アシュケナージの演奏では第1楽章の導入部のみが
アダージョで緩やかに美しく歌われる以外は
終曲までヴィヴァーチェのみの快速の勢いを感じます。

次に聴いたシュナーベル
収録曲順ともアシュケナージと同じですが、シュナーベルの方は同じディスクに第25番も収録されています。

アルトゥール・シュナーベル~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より
)432ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第24番「テレーズ」シュナーベル ピアノ・ソナタ全集
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第21, 22, 23,24番
ピアノ・ソナタ第25番 ト長調 Op.79

アルトゥール・シュナーベル(P)
(全集録音:1932年~1938年)

第1楽章の冒頭、導入部のシュナーベルのピアノから紡ぎ出される歌の美しさに
ただただ、聴き入ってしまいます。
雑念は消え、この曲の美しさだけが心を占領。
導入部以降も落ち着いた雰囲気のピアニズム。
表情の豊かさ。
じっくりと耳を傾け心を奪われてしまいます。
次曲の第25番は前回お寄せいただいたコメントを拝読して聴いていたソナタです。
24番、25番ともに惹かれるものを感じます。
第25番もお気に入りになりシュナーベルで繰り返し聴いておりました。

久し振りに聴いてみたくなったアシュケナージ。
たまたま思い立ち耳を傾けててみたシュナーベル。
対照的な24番でしょうか。

「テレ―ズ」の肖像画をピアノで描写するとしたら・・・。
アシュケナージの演奏からは完全無欠で「華美な趣を湛えたテレーズ」。
伯爵令嬢としての華麗なテレーズでしょうか。
シュナーベルでは「誠実で美しいテレーズ」。
ベートーヴェンの死の翌年に託児所を創設し、独身を貫き託児所の仕事を続けたというテレーズの面影を見るような想いを抱きます。

対比的な2人の演奏。
演奏の好みは各人各様と思いますが、個人的にはシュナーベルの演奏が気に入っています。

               
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2018.03/17(Sat)

OP.431 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第22番」 by ソロモン

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ』
今日はソナタ第22番を。

いつものように聴いた記憶がなかったのですが、第1楽章の第1主題が耳に入り微かに過去に聴いた記憶が戻ってきました。
前回と同じソロモンのディスクからです。
私が所持しているディスクは第1楽章の終わり頃,、コーダの部分に再生不良個所がありますが、やはりソロモンは外せませんので。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第22番
ソロモンベートーヴェン ピアノ・ソナタ集より

430:ベートーヴェン Piano Sonatas 17 18 21 & 22ソロモン ソロモン
(収録曲)
ベートーヴェン 
ピアノ・ソナタ第17番ニ短調「テンペスト」Op.31-2(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調Op.31-3(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第21番ニ長調「ワルトシュタイン」Op.53(1952年録音)
ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調Op.54(1951年録音)
ソロモン・カットナー(P)

第1楽章:In Tempo d’un Menuetto ヘ長調 3/4拍子
第2楽章:Allegretto ヘ長調 2/4拍子


作曲されたのは前作「ワルトシュタイン」に引き続き1804年に書かれたそうです。
2楽章構成で第1楽章はロンド形式に似通い、第2楽章は自由な三部形式で
形式的にかなり自由になっているとのこと。

このソナタは「ワルトシュタイン」と「熱情」の間に挟まれた作品とは言え
その2曲のソナタとの比較を抜きにしても目立たない作品とのこと。
昔から好意のある評価をあまり受けることがなかったそうです。

大木正興、正純両氏の記述によると
「何故、このような風変りな作品が突然生み出されることになったのか理解し難い」とのこと。
氏の推測では第2楽章構成のソナタへの積極的な試み
或いは、ソナタそのものの構成と内容に新風を送りこもうとする意図
この2点を挙げて居られます。

出版は1806年にウィーンの美術工芸社より「ソナタ第51番」作品54 として出版されたそうです。
作品番号に問題はないものの、「第51番」が何を意味するのかが大問題になったとのことです。
リーマンやノッテポーム等が、ボン時代に作曲された作品を加えてみたり、或いはソナタの形式で書かれた作品全てを数えたりして、「第51番」の数字を合わせることに苦労をしたとのこと。
しかし、確かな事は不明とのことです。

曲の献呈はなし。
自筆譜の行方も不明とのことです。


ソロモンで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第22番

第1楽章は形式としてはロンド形式に似ているそうです。
愛らしく優しい調べの第1主題で始まる第1楽章。
優しさが溢れる主題に親しみを感じ、ホッと寛ぎを覚えます。
第1主題が数回繰り返された後現れる第2主題。
第1主題とは対照的。
動的で激しさを感じさせる第2主題。
左手の動きを追う右手がカノンのよう。
聴いていると優雅な趣も。
経過部では静かに囁くように奏され
続いて左手が3連音の低音域を奏するのが相図でもあるかのように再現部に。
コーダになりお気に入りの第1主題が現れ耳を傾けていると、私が所持しているディスクでは再生不良個所が。
何とか意地で耳を傾けていると第1主題での盛り上がりの後に穏やかに閉じられる楽章。

第2楽章は自由な三部形式で、16分音符で流れ続ける無窮動的性格の楽章とのことです。
低音で流れるように始まる第3楽章。
奏される低音を少し遅れて追いかける高音。
常動曲の性格の楽章らしく忙しげで目まぐるしい動き。
右手と左手の徒競走を連想してしまいます。
活力、推進力、満点。
コーダも今までの延長で主題だけが用いられ
ゴールをするかのように速度を変えずに迎える曲の終わり。


このソロモンのディスクはお気に入りの一枚になっています。
ただ、残念なのは所持しているディスクには、冒頭にも書きましたが第1楽章のコーダの部分、4分20秒前後から再生不良個所があること。
楽章が閉じられる寸前になり再び再生が正常に戻るのですが・・・何か中途半端な気分。

気を取り直し再生不良個所を忘れソロモンの演奏。
やはり第1楽章の第1主題を奏するソロモンが好印象です。
愛らしく優しい趣の主題を優しいタッチで。
いかにも壊れ物にでも触るかのような、微妙なタッチ。
音を愛でるように生み出される優しさ。
対して第2楽章での終始一貫した16分音符を淀みのない闊達なタッチ。
ソロモンの指はキーの一部に化しているような。

第1楽章の第1主題を除きこのソナタもまた、前回聴いた第18と同じように
特に印象深く心に残るものがないような気がしてします。
が、ソナタ第18番と同様に耳を傾けている最中には
惹き込まれてしまう不思議な魅力を感じています。

                
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20:20  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

2018.03/10(Sat)

Op.430 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第18番」 by ソロモン

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」
前回は作品31-2、第17番を聴きましたでので、今回はその次の作品31-3、第18番を聴いてみました。
再びソロモンの演奏に戻ります。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第18番
ソロモンベートーヴェン ピアノ・ソナタ集より

430:ベートーヴェン Piano Sonatas 17 18 21 & 22ソロモン ソロモン
(収録曲)
ベートーヴェン 
ピアノ・ソナタ第17番ニ短調「テンペスト」Op.31-2(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調Op.31-3(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第21番ニ長調「ワルトシュタイン」Op.53(1952年録音)
ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調Op.54(1951年録音)
ソロモン・カットナー(P)

第1楽章:Allegro 変ホ長調 3/4拍子
第2楽章:Scherzo:Allegretto vivace 変イ長調 2/4拍子
第3楽章:Minuet /Trio:Moderato e grazioso - Coda 変ホ長調 3/4拍子
第4楽章:Presto con fuoco 変ホ長調 6/8拍子


作品31の3曲のソナタではこの曲だけが4楽章構成になっているそうです。
このソナタには古くから「狩りのソナタ(Die Jagd)」との呼称が付けられているそうです。
曲に耳を傾けつつ、狩猟に興じる雰囲気を連想したりしていました。


ソロモンで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第18番
今日はごく簡単なメモとして。

タン・タ・タ と短く奏され始まる第1楽章。
この主題を奏するピアノは明るく弾むような軽快さ。
この第1主題の動機は2つの性格の動機からなっているそうで、冒頭、最初の動機についてスコットは次のように形容をしているとのことです。
「まるで宵の明星が窓辺を訪れて軽く打つような不思議なほど優しい声」
第2主題の何と軽やかで愛らしい調べ。
このソナタ中では一番お気に入りの第2主題です。      
明るく軽快な第1楽章。
ソロモンの指が鍵盤の上を飛び跳ねるかのような弾むピアノ。
第2主題を奏するこの上ない愛らしさ。

スタッカートの伴奏で始まる第2楽章。
全体にリズムは豊かに生き生きと息づき活発、溌剌とした楽章。
ソロモンのピアノタッチも切れ味よく。
時には左手は雄大な趣を醸し出しているようです。

第3楽章はベートーヴェンがピアノ・ソナタにメヌエットを使用したのはこのソナタが最後だそうです。
尚、トリオの部分はサン=サーンスが「ベートーヴェンの主題による2台のピアノのための変奏曲」作品35として取り上げたとのこと。
機会がありましたら聴いてみたいものです。

素朴さを感じるメヌエット主題。
優しく歌うような調べの主題。
前楽章の第2主題とともにお気に入りの主題に。
メヌエット主題を優しさを込め弾くソロモン。

速い動きで活発に始まる第4楽章。
この第1主題でのリズムの上を跳躍するような旋律。
この旋律は狩猟の合図を連想させるもので楽章の性格を決定しているとのこと。
この旋律についてベッカーは「一種のドイツ人のタランテラ舞曲」と表現しているそうです。
   
終始、跳躍するような活発な楽章。
楽章全体に漂う歓びに溢れた躍動感。
一抹の翳りもなく活気と歓びに彩られた輝くような楽章。
力強くエネルギーを放出するかのように閉じられる曲。
ソロモンのピアノはキーの上を軽やかに飛び跳ねるかのようです。
また清々しさを感じるピアニズム。


4つの楽章を通して終始一貫している明るさ。輝くような明るさ。
屈託がなく、感情の起伏の激しさの影は微塵も感じられず、明るく楽しげな趣。
活き活きとしたリズムに快さを抱きます。

心に染み入る旋律に惹かれ曲を繰り返し聴くということは多々ありますが
この曲から伝わる快さには飽きさせることがないようです。
繰り返し聴ききたいとの魅力を感じる曲。
今までベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いてきましたが
私にとっては異色の存在であるかのように感じられるソナタ。
今回はソロモンの演奏しか聴くことができませんでしたが
時間的余裕がある時に他の演奏にも耳を傾けたいと想わせる魅力が秘められているようです。

               
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20:16  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

2018.03/03(Sat)

Op.429 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第17番≪テンペスト≫」 by ギレリス

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
ギレリスのピアノでソナタ第17番「テンペスト」を聴いてみました。

いつもお邪魔をさせていただいているブログで記事を拝読させていただき、またお寄せいただいたコメントを拝読し聴きたかったギレリス
先日、ソナタ第15番の記事を拝読させていただき、是が非でも聴きたい気持ちは頂点に。
でも、私にとっては高価なBox。
小さな声で)幸い中古が見つかりました。
心待ちにしていたギレリスのBoxが届き、第15番を聴きそして第17番を。
第15番は前回聴きお気に入りになっていましたし、ギレリスでも聴くことができ嬉しい限りです。
ソナタ第17番は本来、少々苦手な曲だったのですが・・・いざ、耳を傾けすっかり第2楽章に惹かれています。
今回はこのBoxからです。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第17番「テンペスト
ギレリスベートーヴェン ピアノ・ソナタ選集より

483:ベートーヴェン:ピアノソナタ第17番「テンペスト」ギレリス~ベートーヴェン・ピアノソナタ集より
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第16番 ト長調 Op.31-1(1975年9月録音)
ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2「テンペスト」(1981年10月デジタル録音)
ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3(1981年10月デジタル録音)

エミール・ギレリス(P)

第1楽章:Largo – Allegro ニ短調 2/2拍子
第2楽章:Adagio 変ロ長調 3/4拍子
第3楽章:Allegretto ニ短調 3/8拍子


作品31の3曲のピアノ・ソナタの一つ。
3つのピアノ・ソナタは1801年から1802年にかけ並行して作曲されたそうです。
1802年の初めには完成、或いはだいたいの作曲は完了していたとのこと。

このソナタの呼称「テンペスト」の由来はベートーヴェンの弟子のシンドラーが作品57へ短調(ソナタ第23番「熱情」)と、このソナタ第17番(当時は作品29として出版されたとのこと)ニ短調のソナタ2曲を理解する鍵を与えてほしい、とベートーヴェンに言ったところ、シェイクスピアの「テンペスト」を読むように、との答えでありそれが曲の呼称「テンペスト」になっているそうです。
「嵐」、イタリア語では Una tempesta でしょうか。女性名詞で頷いてしまいます。
米国では台風に女性の名前を付けるそうですが・・・。
やっぱり・・・と、何故か素直に頷いています。

さて、曲は3楽章構成ですべての楽章がソナタ形式になっていることが曲の特色として挙げられるとのことです。

弟子のツェル二ーによると、ベートーヴェンは作品31を作曲している頃に友人のヴァイオリニスト、ヴェンゼル・クルブホルツに「自分はこれまでの作品に満足していない。これからはまったく新しい道を行くつもりだ」と語ったそうです。
この言葉に含まれるベートーヴェンの決意は特に作品31の3つのソナタの中でも、この第17番に表れていると考えることができるようです。


作品31の3つのソナタのうちでブログに登場をしたのは作品31-2、第16番だけでした。
当時と重複をしますが、いつものように自分の復習として。

作品31の3つのソナタ。
第16番 作品31-1 ト長調
第17番 作品31-2 ニ短調「テンペスト」
第18番 作品31-3 変ホ長調

最初に出版されたのは第16番と17番で
1803年4月にチューリッヒの出版社、ハンス・ゲオルグ・ネーゲリにより彼が編集した「クラヴサン奏者演奏曲集」として出版されたとのことです。
因みに第18番の出版は1804年5月、或いは6月にピアノ・ソナタ第8番「悲愴」との組み合わせで出版。
1804年に作品31の3曲がジムロック社からまとめて出版されたとのこと。
作品31には献呈者はなく、また自筆譜も紛失しているそうです。


ギレリスで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」

第1主題の冒頭ラルゴで始まる第1楽章。
この第1主題は僅か6小節でラルゴ、アレグロ、アダージョとテンポが変わるとのこと。
単音でポツンポツンとラルゴで弾かれ始まる第1主題。
突如、激しく変化をしアレグロに。
また突如テンポの変化。アダージョに。
次々とテンポが急速に変わり緊張を感じさせる第1主題。
経過部ではアレグロの部分で左手の伴奏に右手が奏する旋律には美しい趣が漂っているよう。
新しい旋律が現れ力強く奏され。響く左手の低音に右手の活発な動き。
第2主題は第1主題のアレグロの部分を材料としているとのこと。
展開部でのダイナミックさ。再現部を経て力強く激しく。
曲の終わりは音力を落とし静かに閉じられる第1楽章。

ゆっくりと、しみじみとした味わいを感じさせる旋律で始まる第2楽章。
静かに弱くアルペッジョで奏され始まる第1主題。
右手の高音は束の間、左手に呼応するかのよう。
経過部で左手に低く短い打鍵。その上に右手はゆったりとした歌を奏するように。
右手と左手が反転をし右手が高音で短い打鍵を。
漂う凛とした佇まい、緊張感。
第2主題が現れ美しい調べにハッとします。
ゆったりと歌う右手。夢見るような、憧れを感じさせるような調べ。
ウットリと聴き入っていると経過部で現れた左手の弱音の低い響きの打鍵に現実に戻されるかのよう。
コーダでは右手の高音が愛らしく感じます。
素朴で抒情的な調べも現れ郷愁に似た想いにも。
右手が奏する高音の調べは憧れを感じさせるかのように響き
心に染み入るように静かに閉じられる第2楽章。  

耳慣れた第1主題の速い動きで始まる第3楽章。
動きは速いながらも力を落とし穏やかすら感じさせる打鍵から力強い打鍵に。
この調べもまた美しく感じられます。
第1主題はツェル二ーによると、ベートーヴェンは馬車が走行する足音から思い付いたそうです。
第2主題が現れ力強くなり漂う高揚感。
展開部は第1主題のみの音型の展開とのこと。
伸びやかな趣。
コーダは第2の展開部とも言えるそうで、長大。
ここでも第1主題が素材になっているとのこと。
華麗な雰囲気も漂っているようです。
右手が歌うように奏され静かに迎える曲の終わり。


今までソナタ第17番には苦手意識もありじっくり耳を傾けることはありませんでした。
今回、じっくりと耳を傾け、第1楽章の第1主題が苦手だったようです。
その主題だけが拡大されて脳裏に刻まれ=苦手な曲、になっていたかと思います。
ですが、じっくり聴いてみると、第1主題でもラルゴの部分は印象に残り惹かれるものを感じます。
何と言っても、第2楽章の第2主題の調べ。
耳に焼き付くような美しい旋律。
この曲に対しての苦手意識は跡形を消し、親しみ、愛おしさすら感じてしまいます。

ギレリスに耳を傾け第1楽章では角が取れ丸く、柔和な趣を漂わせているように感じられます。
第2楽章の美しさ。素朴な愛らしさを控え目に語るかのような静かで優しいピアニズム。
この楽章での弱音の囁くような響きには素朴さも感じられ聴き入ってしまいます。
第3楽章での伸びやかなタッチ。右手と左手は波でもあるかのような、流線の滑らかさ。
右手の高音の響きは愛らしく印象に残ります。
心の中で旋律を歌いつつ、指先に伝えられる歌。
穏やかさが漂う「テンペスト」のように感じられます。

現在、心酔をしているソロモンと同じように、ギレリスも全集は未完だそうです。
5曲を残し全集を完成させることなく急逝されたとのことです。
ギレリスの演奏に出会うことができ幸いを感じつつ。
こちらのBox、噛みしめつつじっくりと耳を傾けたいと思います。

                
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2018.02/24(Sat)

Op.428 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第15番≪田園≫」 by バレンボイム;アラウ&バックハウス

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
相変わらず初期、中期、後期のソナタを行きつ戻りつしています。
何気なくソナタ全曲の目次を見ていて目に付いたのが第15番。
副題に「田園」との文字。
ピアノ・ソナタにも「田園」があることを知り、副題に釣られ聴いてみました。
嘗て聴いたことがあったのか、この曲もまた記憶が定かではありません。
穏やかな曲かと想像をして・・・副題とは程遠い印象の曲に感じられました。
今回は第15番を。
アラウバックハウスバレンボイムで聴いてみました。
3つの演奏でバレンボイムを代表で。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第15番「田園
バレンボイムベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より


417 :ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第8番 全集 バレンボイム
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第15番ニ長調Op.28「田園
ピアノ・ソナタ第21番ハ長調Op.53「ワルトシュタイン}
ピアノ・ソナタ第19番ト短調Op.49-1
ピアノ・ソナタ第20番ト長調Op.49-2
(録音:1966-69年 1回目の全集)

第1楽章:Allegro ニ長調 3/4拍子
第2楽章:Andante ニ短調 2/4拍子
第3楽章:Scherzo/Trio: Allegro vivace ニ長調 3/4拍子
第4楽章:Rondo:Allegro ma non troppo ニ長調 6/8拍子

作曲されたのは作品27の2曲と同じ1801年。
ベートーヴェンの自筆譜に書き込まれているそうです。
曲の着想については不明とのこと。

田園」との呼称はベートーヴェン自身が付けた標題ではないそうです。
1883年にハンブルクの出版業者オーガスト・クランツがこの曲を “Sonate pastorale” として出版。
以来、この呼称になったものと推測できるとのことです。
当時は田園情緒のある音楽が流行していたそうで、クランツは商策として “Sonate pastorale” と名付けたとも考えられるようです。

第12番から第13番、14番にかけての3曲ではベートーヴェンは新しい大胆なソナタを書き上げ、この第15番では形式は古いスタイルの4楽章構成に戻り、内容も穏やかになっているとのことです。
「主観性の強い激しい世界と、客観的な平穏な世界を同じ時期に別々の作品に形成してゆくやり方は、ベートーヴェンの作曲における著しい特色」とのこと。
確かにこのソナタ第15番は前作品、第14番「月光」の主観性の強い激しい世界とは対照的。

出版は1802年8月、ウィーンの美術工芸社から初版が出されたそうです。

248 ベートーヴェン ピアノソナタ第15番「田園」ゾンネンフェルス
Joseph Freiherr von Sonnenfels
(1732、或いは1733年-1816年4月25日)

献呈は当時のウィーンの名士であったヨゼフ・フォン・ゾンネンフェルスに。
オーストリアの啓蒙主義者で劇作等を通し啓蒙運動を行い、政治学の教授でもあったとのこと。
晩年は美術学校の校長も務めたそうです。
ベートーヴェンとの関係は不明とのこと。
ベートーヴェンに出版元を紹介したのが献呈の動機との説もあるそうです。

自筆譜はボンのベートーヴェン・ハウスに保存。


バレンボイムで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第15番「田園」

穏やかで美しい調べの第1主題で始まる第1楽章。
この主題ののどかで美しい歌のような調べはこの曲の中で最も印象に残ります。
副題の「田園」を連想させるのはこの主題だけのようにも感じられますが。
闊歩するような左手の伴奏を経て、再び第1主題になり、ホッとします。
第2主題も伸びやかな趣。
華やかな調べと第2主題が交互に歌われ、平和な佇まいを感じます。
バレンボイムの演奏では特に印象に残ります。
展開部で左手の規則正しく弾かれる8分音符は、右手の旋律に軽快な趣を添え
生き生きとした息吹を注ぎ込んでいるかのよう。
再現部を経てコーダで現れる第1主題。
和やかな雰囲気を漂わせ静かに閉じられる第1楽章。

第2楽章はベートーヴェンの弟子カール・ツェル二ーが次のように表現しているそうです。
「素朴な物語 過ぎし時のバラード」
ツェル二ーによるとベートーヴェンはこの第2楽章を特に気に入り飽きることなく弾いていたとのこと。

明るい優しさを感じさせる主題で始まる第2楽章。
左手のスタッカートの伴奏で始まるこの主題は印象的です。
歩みのように刻まれる旋律。
中間部は明るく愛らしい主題。軽快なリズム。
右手が奏する高音はまるで楽しげな笑い声でもあるかのように響いてきます。
こぼれる笑みを連想させるような愛らしいリズムの主題。
第3部は第1部の変奏による再現とのこと。
明るい雰囲気で右手の雄弁なお喋りに相槌を打つ左手の伴奏も姿を現し。
微笑ましく翳りのない楽想。
コーダで楽しい夢うつつのような趣で静かに閉じられる第2楽章。

音が下降する動機の主題で始まる第3楽章。
1オクターブづつ下降しているとのこと。
溌剌とした動的な趣を感じる印象的な主題。
トリオもまた活発な雰囲気。
勢いを感じさせつつ閉じられる第3楽章。

第4楽章は古くからいろいろな人により文学的に形容されているそうです。
ライネッケは「遠くから響く鐘の音、または森の囁き」
エルターラインは「跳ねまわって遊び、騒がしく健康な田舎の子供たち」
グローヴは「牧童の音楽」  

軽快なロンド主題で始まる第4楽章。
経過部でのアルペッジョを経て現れる第2主題。
ロンド主題による展開部では茶目っ気な雰囲気も漂っているようです。
この楽章では最後の第3の主題が印象的。
この主題は第2主題によるものとのこと。
高潮し華麗な雰囲気に。
テンポが落ち、右手の活発な動きには華麗な趣も。
クレッシェンドでの低音の響きの力強さ。
華々しく豪壮に迎える曲の終わり。


副題を見て穏やかな田園風景などを連想していましたが、
「田園」の趣を感じたのは第1楽章の第1主題だけのように想います。

初めにアラウの演奏から聴き、次にバックハウスで聴いていました。
ふと目に付いたバレンボイムは予定外でしたが聴いてみました。
3人の演奏を聴き「田園」のイメージに近かったのが、バレンボイム。
聴く前にはアラウに抱いているイメージから理想的な演奏かと思っていたのですが。
演奏が立派すぎるようで・・・。

因みに録音時間を。
アラウ      9分34秒/7分53秒/2分03秒/5分04秒 
バックハウス  6分46f秒/6分27秒/1分53秒/4分18秒
バレンボイム  12分22秒/9分07秒/2分52秒/5分57秒

第1楽章でバレンボイムはバックハウスの約2倍の遅さであることに興味をそそられます。

アラウでは明るい、リズム感。第4楽章のコーダで重厚に響くピアノが印象的でした。
満開のひまわりの花の佇まい。時には風になびく姿を連想していました。
もし副題を付けるとしたら「ひまわり」とでも。
バックハウスでは闊達で豊かなリズム感。第3楽章にが印象に残る演奏。
キビキビとした推進力。リフレッシュ効果抜群でしょうか。
副題は「若者」とでも名付けたくなります。

バレンボイムはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を4回録音しているそうですが、この第1回目の録音しか持っていません。
この第1回目の全集は20代の録音になるのでしょうか。
のどかで抒情的な雰囲気が漂う演奏。
呼称の「田園」を想起させるに相応しい演奏に感じられます。
バレンボイムで特に印象的だったのは第1楽章の第1主題。
のどかで、素朴な美しさを湛え聴き入ってしまいました。
全楽章を通して弱音、強音の微妙な変化での細やかな表情付けにも惹かれます。
4回録音をした全集、各々を聴きたいところですが・・・当分は見果てぬ夢になりそうです。

三者三様とは言え、かなり趣の違いを感じさせられる第15番。
3人の演奏を聴き、第1楽章の第1主題だけでもソロモンで聴きたい・・・これもまた見果てぬ夢。

最後にお願があります。
ソロモンのベートーヴェン、ピアノ・ソナタ集(1集~5集)としてショップから発売されている曲目や手持ちのディスクの曲目をメモしてみました。
第15番は見当たりません。
未収録だったのでしょうか。ご教示いただけると幸いです。

                
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2018.02/17(Sat)

Op.427 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第31番」 by ソロモン

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
今回もまた、ソロモンです。
ソロモンのピアノでの連続3回目になるようです。
今回はソナタ第31番を。

ソロモンの演奏で是が非でも聴きたいと思っていたソナタ第30番がお目当てで求めたディスクからです。
いつの間にかソロモンのディスクで手持ちの曲とだいぶ重複してきてしまいました。


ベートーヴェンピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110
ソロモンベートーヴェン ピアノ・ソナタ集5より

427: ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第31番 ソロモン~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ集5
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第23番 ヘ長調 Op.57 「熱情」(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第28番 イ長調 Op.101(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109(1951年録音)
ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110(1956年録音)

ソロモン・カットナー(P)


第1楽章:Moderato cantabile, molto espressivo 変イ長調 3/4拍子
第2楽章:Allegro molto - Coda (Poco Piu mosso) へ短調 2/4拍子
第3楽章:Adagio, ma non troppo 変イ長調 4/4拍子
第4楽章: Fuga:Allegro, ma non troppo - L'Istesso tempo dell' arioso - L'Istesso tempo della fuga - Meno allegro
      変イ長調 6/8拍子


作曲されたのは1821年から22年だそうです。
1819年からは「ミサ・ソレムニス」の作曲にも取り掛かり豊かな創作活動が始まった時期とのことです。
「ミサ・ソレムニス」の作曲中に書かれたのは「デイアヴェリ変奏曲」や「交響曲題9番」の第1楽章のスケッチが現れるのもこの時期だそうです。
この間に1818年にピアノ・ソナタ第29番の「ハンマークラヴィーア」の完成に続き、後期の3曲のピアノ・ソナタ、第30,31,32番が作曲されたとのこと。

1821年に完成されたこのソナタの原稿には、1821年12月25日 との日付けが記されているとのことです。
キンスキーの記述によると、1822年にさらにベートーヴェンは終楽章に手を加えたことになっているそうです。

いつものように自分のメモ。このソナタが作曲された前後のベートーヴェンの履歴。以前に綴ったことと重複します。

1818年。48歳。甥カールの教育問題、養育問題でカールの実母との裁判闘争に神経を擦り減らす。
聴覚の衰えが激しくなる。
ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」完成。
1819年。49歳。この一年間も常に甥カールの後見問題が精神生活に暗い影を落とす。
会話も不自由になり筆談帳を多く使用するようになる。
初夏、「ミサ・ソレムニス」の着手に対する心の準備。翌年のルドルフ大公のオルミッツ大司教への就任、即位式3月9日に間に合わせるべくミサ曲の筆を進める。
1820年。50歳。この年も甥カールをめぐる訴訟問題で年が明ける。(4年半に及ぶ後見問題に決着が付くのはこの年の7月24日)
3月9日、ルドルフ大公、オルミッツの大司教に就任、即位式。「ミサ・ソレムニス」の作曲間に合わず。
4月末と5月31日付けベルリンのシュレジンガー宛ての手紙により新しいピアノ・ソナタ3つ(第30,31,32番)を作曲する計画。
年末、約10年間秘書役を務めたオリヴァーがペテルブルクに去る。
1821年、51歳。年頭から健康状態の悪化により2ケ月近く床に着いた生活。
夏、ウンターデブリンクで静養。
7月、強い黄疸症状により絶対安静。
9-10月、バーデンにて静養。
1822年。52歳。「ミサ・ソレムニス」売り込みのためにシュレジンガー、ジムロック、ペータース、シュタイナー、アルタリア等多くの出版社に手紙を出す。
10月3日、ヨーゼフシュタット劇場の杮落しで「献堂式」序曲、「献堂式」への合唱曲の初演。
この頃からA.シンドラーが秘書役を務める。
                  (以上)

このソナタは誰にも献呈されていないそうです。
出版は1822年7月、パリとベルリンのアドルフ・マーティン・シュレジンガーにより行われたとのこと。
自筆譜はベルリン国立図書館の保存されているそうです。


ソロモンで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番

柔和で優しさに溢れた調べの第1主題で始まる第1楽章。
主題の冒頭は静かに思索をするかのようにゆっくりと始まり
アルペッジョの後からは優しさに溢れた調べに。
主旋律を奏する右手は限りなく優しく素朴な雰囲気。
ソロモンの素晴らしさがこの旋律に現れているように感じます。
このような美しい抒情性に満ちた旋律がベートーヴェンの作品にあったのか、と思い巡らしてしまいます。
とにかく美しい。絶世の美しさとして響き染み入る調べ。
経過部にアルペッジョが現れ高揚感を伴う趣に。
第2主題では愛くるしさを感じる調べ。
展開部に入り、第1主題の冒頭が力強い趣で。
左手が奏する楽章冒頭の旋律には低音域に響きが加わり海原を連想するような動き。
数回繰り返し奏され再現部に。
コーダはアルペッジョに始まり美しく奏される第1主題の冒頭。
一時、高潮し再び戻る静けさ。
力強いアルペッジョが再び現れ多様な変化を見せつつ静かに閉じられる第1楽章。

フォルテとピアノが対照的に奏されるリズミカルな主題で始まる第2楽章。
活発、躍動的な雰囲気の主題。
この主題は嘗て聴いたことがある記憶が甦って来ました。
ソナタ番号は記憶にありませんでしたが独特な雰囲気で印象に残る主題です。
続いて新しい旋律が現れ軽快に。
力強く打ち込まれるような打鍵を経て軽快で簡潔な短いトリオ。
第3部を経てコーダは低音域が響き渡り
雪崩れるように奏され閉じられる第2楽章。

第3楽章は序奏部と主部を分けアダージョで始まる序奏を第3楽章、フーガで始まる主部を第4楽章として記載されている演奏が多いように思います。
因みに主として聴いたソロモン。及び部分的に聴いたバックハウス。
いずれも4楽章構成の記載になっていましたのでそれに準じて。

静かに暗鬱な雰囲気の調べで始まるアダージョの第3楽章。
続く、翳りを帯びた「嘆きの歌(Klagender Gesang)」の静かな旋律。
右手の高域の振り下ろすような和音の打鍵が不安感を抱かせ印象的に耳に届きます。
今にも音楽が止まりそうな遅い速度で歌われる「嘆きの歌」。
耳を傾けていると陰鬱な悲哀の歌の中にも美しさが漂っているように感じられます。
ソロモンの紡ぎ出す演奏では真に「美しい歌」。

フーガで始まる第4楽章。
3声のフーガが織りなす主題の旋律も美しさを感じます。
フーガのドラマティックな盛り上がりを経て現れる前楽章の「嘆きの歌」の旋律。
この旋律には「疲れ果て、嘆きつつ」と記されているそうです。
陰鬱さを感じることはなく前楽章同様に「美しい歌」として耳に響く調べです。
歌の後に和音が一音一音ゆっくりと打たれ
次第に音力を強めつつ重厚な響きでクレッシェンドを。
「嘆きの歌」が終わり再び戻る冒頭のフーガ。
このフーガの冒頭には「次第に元気を取り戻しながら」とイタリア語で記されているそうです。
「嘆きの歌」の心情を打ち消すかのように力強く明るい雰囲気で奏される主題。
この主題は冒頭のフーガの主題が転回され、テノールから始まり、ソプラノの応答、そしてバスの3声のフーガになっているそうです。
明朗で雄大な趣すら感じるフーガ。
溢れる歓び、明るさ。大きなスケール感のうちに迎える曲の終わり。


第30番も好きだけれど・・・31番も良いですね。
甲乙を付けがたく惹かれる2つのソナタ。
心に沁みる曲、というのが第31番を耳にしての印象。
曲の終始、これほど心に染み入るソナタは・・・感無量。

この第31番をソロモンの演奏で聴くことに躊躇をしました。
最近は先ず第1にソロモンの演奏で聴き、次に他のピアニストの演奏を聴くのが習慣のようになってきました。
増してやお気に入りになってきた第31番は是非とも最初にソロモンで聴きたいと募る想い。

余談で長くなりそうですが。
以前も綴りましたが、1951年からソロモンはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音を始めたそうです。
シュナーベルのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を企画・製作をしたウォルター・レッグは本格的にLPレコードの生産を開始したEMIのために、1952年に新たなベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音を企画したそうです。
シュナーベルの後継者として演奏者に選ばれたのがソロモンだったとのことです。
当時、ソロモンはピアニストとして既に英国で確固たる地位を築いていたそうです。
そのような経緯で全集の録音を開始したソロモン。
1956年の夏に脳梗塞により左手の第4、第5指の自由が利かない事に気付いたとのことです。
ソナタ第31番の終楽章で指が滑り、一部欠落し修正されないままだったそうです。
脳梗塞により引退を余儀なくされたソロモンのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は未完に終わったとのこと。
この第31番に耳を傾けていて私には終楽章のミスにはまったく気付くことはありませんでした。

ソロモンの演奏で聴き、大好きになったソナタ第31番。
このソナタでもソロモンの素朴な落ち着きを感じさせるピアニズムに好感を抱きます。
譜面と誠実に向き合い真摯な演奏。
ベートーヴェンと対話をしつつ一音一音、心を込め紡ぎ出される調べ。
当然のことながらベートーヴェン自身の演奏をきいたことはありませんが
恰も実際にベートーヴェンの心の語り掛けを聴いているような錯覚に陥ります。
ベートーヴェンの心の代弁者として最高のソロモン、と思うこの頃です。

                
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