2018.02/17(Sat)

Op.427 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第31番」 by ソロモン

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
今回もまた、ソロモンです。
ソロモンのピアノでの連続3回目になるようです。
今回はソナタ第31番を。

ソロモンの演奏で是が非でも聴きたいと思っていたソナタ第30番がお目当てで求めたディスクからです。
いつの間にかソロモンのディスクで手持ちの曲とだいぶ重複してきてしまいました。


ベートーヴェンピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110
ソロモンベートーヴェン ピアノ・ソナタ集5より

427: ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第31番 ソロモン~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ集5
(収録曲)
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第23番 ヘ長調 Op.57 「熱情」(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第28番 イ長調 Op.101(1954年録音)
ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109(1951年録音)
ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110(1956年録音)

ソロモン・カットナー(P)


第1楽章:Moderato cantabile, molto espressivo 変イ長調 3/4拍子
第2楽章:Allegro molto - Coda (Poco Piu mosso) へ短調 2/4拍子
第3楽章:Adagio, ma non troppo 変イ長調 4/4拍子
第4楽章: Fuga:Allegro, ma non troppo - L'Istesso tempo dell' arioso - L'Istesso tempo della fuga - Meno allegro
      変イ長調 6/8拍子


作曲されたのは1821年から22年だそうです。
1819年からは「ミサ・ソレムニス」の作曲にも取り掛かり豊かな創作活動が始まった時期とのことです。
「ミサ・ソレムニス」の作曲中に書かれたのは「デイアヴェリ変奏曲」や「交響曲題9番」の第1楽章のスケッチが現れるのもこの時期だそうです。
この間に1818年にピアノ・ソナタ第29番の「ハンマークラヴィーア」の完成に続き、後期の3曲のピアノ・ソナタ、第30,31,32番が作曲されたとのこと。

1821年に完成されたこのソナタの原稿には、1821年12月25日 との日付けが記されているとのことです。
キンスキーの記述によると、1822年にさらにベートーヴェンは終楽章に手を加えたことになっているそうです。

いつものように自分のメモ。このソナタが作曲された前後のベートーヴェンの履歴。以前に綴ったことと重複します。

1818年。48歳。甥カールの教育問題、養育問題でカールの実母との裁判闘争に神経を擦り減らす。
聴覚の衰えが激しくなる。
ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」完成。
1819年。49歳。この一年間も常に甥カールの後見問題が精神生活に暗い影を落とす。
会話も不自由になり筆談帳を多く使用するようになる。
初夏、「ミサ・ソレムニス」の着手に対する心の準備。翌年のルドルフ大公のオルミッツ大司教への就任、即位式3月9日に間に合わせるべくミサ曲の筆を進める。
1820年。50歳。この年も甥カールをめぐる訴訟問題で年が明ける。(4年半に及ぶ後見問題に決着が付くのはこの年の7月24日)
3月9日、ルドルフ大公、オルミッツの大司教に就任、即位式。「ミサ・ソレムニス」の作曲間に合わず。
4月末と5月31日付けベルリンのシュレジンガー宛ての手紙により新しいピアノ・ソナタ3つ(第30,31,32番)を作曲する計画。
年末、約10年間秘書役を務めたオリヴァーがペテルブルクに去る。
1821年、51歳。年頭から健康状態の悪化により2ケ月近く床に着いた生活。
夏、ウンターデブリンクで静養。
7月、強い黄疸症状により絶対安静。
9-10月、バーデンにて静養。
1822年。52歳。「ミサ・ソレムニス」売り込みのためにシュレジンガー、ジムロック、ペータース、シュタイナー、アルタリア等多くの出版社に手紙を出す。
10月3日、ヨーゼフシュタット劇場の杮落しで「献堂式」序曲、「献堂式」への合唱曲の初演。
この頃からA.シンドラーが秘書役を務める。
                  (以上)

このソナタは誰にも献呈されていないそうです。
出版は1822年7月、パリとベルリンのアドルフ・マーティン・シュレジンガーにより行われたとのこと。
自筆譜はベルリン国立図書館の保存されているそうです。


ソロモンで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番

柔和で優しさに溢れた調べの第1主題で始まる第1楽章。
主題の冒頭は静かに思索をするかのようにゆっくりと始まり
アルペッジョの後からは優しさに溢れた調べに。
主旋律を奏する右手は限りなく優しく素朴な雰囲気。
ソロモンの素晴らしさがこの旋律に現れているように感じます。
このような美しい抒情性に満ちた旋律がベートーヴェンの作品にあったのか、と思い巡らしてしまいます。
とにかく美しい。絶世の美しさとして響き染み入る調べ。
経過部にアルペッジョが現れ高揚感を伴う趣に。
第2主題では愛くるしさを感じる調べ。
展開部に入り、第1主題の冒頭が力強い趣で。
左手が奏する楽章冒頭の旋律には低音域に響きが加わり海原を連想するような動き。
数回繰り返し奏され再現部に。
コーダはアルペッジョに始まり美しく奏される第1主題の冒頭。
一時、高潮し再び戻る静けさ。
力強いアルペッジョが再び現れ多様な変化を見せつつ静かに閉じられる第1楽章。

フォルテとピアノが対照的に奏されるリズミカルな主題で始まる第2楽章。
活発、躍動的な雰囲気の主題。
この主題は嘗て聴いたことがある記憶が甦って来ました。
ソナタ番号は記憶にありませんでしたが独特な雰囲気で印象に残る主題です。
続いて新しい旋律が現れ軽快に。
力強く打ち込まれるような打鍵を経て軽快で簡潔な短いトリオ。
第3部を経てコーダは低音域が響き渡り
雪崩れるように奏され閉じられる第2楽章。

第3楽章は序奏部と主部を分けアダージョで始まる序奏を第3楽章、フーガで始まる主部を第4楽章として記載されている演奏が多いように思います。
因みに主として聴いたソロモン。及び部分的に聴いたバックハウス。
いずれも4楽章構成の記載になっていましたのでそれに準じて。

静かに暗鬱な雰囲気の調べで始まるアダージョの第3楽章。
続く、翳りを帯びた「嘆きの歌(Klagender Gesang)」の静かな旋律。
右手の高域の振り下ろすような和音の打鍵が不安感を抱かせ印象的に耳に届きます。
今にも音楽が止まりそうな遅い速度で歌われる「嘆きの歌」。
耳を傾けていると陰鬱な悲哀の歌の中にも美しさが漂っているように感じられます。
ソロモンの紡ぎ出す演奏では真に「美しい歌」。

フーガで始まる第4楽章。
3声のフーガが織りなす主題の旋律も美しさを感じます。
フーガのドラマティックな盛り上がりを経て現れる前楽章の「嘆きの歌」の旋律。
この旋律には「疲れ果て、嘆きつつ」と記されているそうです。
陰鬱さを感じることはなく前楽章同様に「美しい歌」として耳に響く調べです。
歌の後に和音が一音一音ゆっくりと打たれ
次第に音力を強めつつ重厚な響きでクレッシェンドを。
「嘆きの歌」が終わり再び戻る冒頭のフーガ。
このフーガの冒頭には「次第に元気を取り戻しながら」とイタリア語で記されているそうです。
「嘆きの歌」の心情を打ち消すかのように力強く明るい雰囲気で奏される主題。
この主題は冒頭のフーガの主題が転回され、テノールから始まり、ソプラノの応答、そしてバスの3声のフーガになっているそうです。
明朗で雄大な趣すら感じるフーガ。
溢れる歓び、明るさ。大きなスケール感のうちに迎える曲の終わり。


第30番も好きだけれど・・・31番も良いですね。
甲乙を付けがたく惹かれる2つのソナタ。
心に沁みる曲、というのが第31番を耳にしての印象。
曲の終始、これほど心に染み入るソナタは・・・感無量。

この第31番をソロモンの演奏で聴くことに躊躇をしました。
最近は先ず第1にソロモンの演奏で聴き、次に他のピアニストの演奏を聴くのが習慣のようになってきました。
増してやお気に入りになってきた第31番は是非とも最初にソロモンで聴きたいと募る想い。

余談で長くなりそうですが。
以前も綴りましたが、1951年からソロモンはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音を始めたそうです。
シュナーベルのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を企画・製作をしたウォルター・レッグは本格的にLPレコードの生産を開始したEMIのために、1952年に新たなベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音を企画したそうです。
シュナーベルの後継者として演奏者に選ばれたのがソロモンだったとのことです。
当時、ソロモンはピアニストとして既に英国で確固たる地位を築いていたそうです。
そのような経緯で全集の録音を開始したソロモン。
1956年の夏に脳梗塞により左手の第4、第5指の自由が利かない事に気付いたとのことです。
ソナタ第31番の終楽章で指が滑り、一部欠落し修正されないままだったそうです。
脳梗塞により引退を余儀なくされたソロモンのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は未完に終わったとのこと。
この第31番に耳を傾けていて私には終楽章のミスにはまったく気付くことはありませんでした。

ソロモンの演奏で聴き、大好きになったソナタ第31番。
このソナタでもソロモンの素朴な落ち着きを感じさせるピアニズムに好感を抱きます。
譜面と誠実に向き合い真摯な演奏。
ベートーヴェンと対話をしつつ一音一音、心を込め紡ぎ出される調べ。
当然のことながらベートーヴェン自身の演奏をきいたことはありませんが
恰も実際にベートーヴェンの心の語り掛けを聴いているような錯覚に陥ります。
ベートーヴェンの心の代弁者として最高のソロモン、と思うこの頃です。

                
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タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第31番 ソロモン シュナーベル

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