2018.04/14(Sat)

Op.435 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第29番≪ハンマークラヴィーア≫」 by アラウ

ベートーヴェンピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
嘗ては大の苦手だった第29番。
現在はお気に入りになった第29番です。
アラウで聴き、その後にソロモンも聴いてみました。
第29番をアラウで。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア
アラウベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集より

416ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第10番 アラウピアノ・ソナタ全集(1962~66)
(収録曲)
ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第20番ト長調Op.49-2
ピアノ・ソナタ第28番イ長調Op.101
ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調Op.106「ハンマークラヴィーア

クラウディオ・アラウ(P)
(録音:1962-66年)

  第1楽章:Allegro 変ロ長調 2/2拍子
  第2楽章:Scherzo Assai vivace 変ロ長調 3/4拍子
  第3楽章:Adagio sostenuto 嬰へ短調 6/8拍子
  第4楽章:Largo 4/4拍子 - Allegro risoluto 3/4拍子 変ロ長調


半年ほど前にワインガルトナー編曲のオーケストラ版でこの第29番を聴いた時に綴ったこと等を以下、引用しつつ。

ベートーヴェンのスケッチ・ブックによると1817年11月に作曲に着手
翌1818年初めには第2楽章までが完成。
第3,4楽章は夏にメードリングの「ハフナ―ハウス」に滞在をしていた間に
ほぼ完成したようです。
ベートーヴェン47歳頃から48歳頃でしょうか。
1819年の3月には作曲も浄書もすべて終わっていたとのことです。

この曲の「ハンマークラヴィーア」という呼称の由来は
ベートーヴェンがシュタイナー社宛ての手紙に “Große Sonate für das Hammerklavier” とドイツ語で記すように指定したことによるそうです。

ベートーヴェンは1818年の夏、ロンドンのピアノ製造者ブロードウッドから優秀なピアノを贈られたそうです。
当時、英国製のピアノは性能では他を圧し優れた機構と音質を持っていたとのことです。
このソナタの第1、第2楽章はピアノを贈与される以前に作曲されており
第3,4楽章だけがブロードウッドのピアノで作曲されたようです。
因みに、ベートーヴェンは1787年にヴァルトシュタイン伯からシュタイン製のピアノフォルテを贈与されて以来、1825年に最後のものとなるC.グラーフ製のピアノを手にするまでに10種類以上のピアノを使用したとのこと。

(wikiドイツ)435ベートーヴェン ピアノソナタ第29番 August von Kloeber  Beethoven (Skizze  1818)
1818年のベートーヴェン オーガスト・フォン・クレーバー作(鉛筆画)

ソナタ第29番を作曲した当時のベートーヴェンのクレーバーによるスケッチは、メ―ドリングの自然を背景に樹下に横たわる甥カールを加えた、失われてしまった全身像の一部のためのものだそうです。
クレーバーは1818年にメ―ドリングを訪ね、数日間にわたり肖像画を描いたとのこと。
彼はまた、当時のベートーヴェンの暮らしぶりや難聴の具合についても記述を残しているそうです。

第3楽章の導入の1小節は、すでにロンドンで印刷にかかっている頃にベートーヴェンが付加したものだそうです。
ベートーヴェンがロンドンに住むリース宛ての1819年4月16日付けの手紙に、各楽章のテンポをメトロノームで指示した折に、第3楽章の導入の1小節を挿入するように依頼をしたとのことです。
また、同じくリース宛ての4月19日付けの手紙には、この曲の件の他にベートーヴェンは次のように記しているそうです。
「このソナタは苦しい事情のもとで書かれた。パンのために書くのはまったく辛いことだ」

出版は1819年9月、ウィーンのアルタリアから。
曲の献呈はルドルフ大公に。
自筆譜は紛失したとのことです。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア

力強く壮大なスケールの冒頭の動機で始まる第1楽章。
この第1主題の前半の明快さ、力強さには希望が溢れ、確固とした自信、揺るぎない決意のようなものが感じられるようです。
アラウのピアノも雄大な趣で響き渡るかのようです。
次に続く後半では穏やかな雰囲気に。
暫く続くこの第1主題の後半。
愛らしさ、柔和さが漂っているようにも感じられます。
力強くクレッシェンドをして再び現れる冒頭の動機。
冒頭動機の力強さと楽章中の強いリズムから活き活きとしたエネルギーが伝わってくるようです。
第1主題が現れ高揚すしドラマティックな趣を経て優しい歌の旋律に。
暫し続く優しい調べも第1主題が現れ勢いを伴いつつ再現部を経てコーダに。
第1主題を素材としているとのこと。素晴らしいコーダ。
息を付かせないほどの気迫。迸るエネルギー。
この楽章の交響的壮大さを総括するように閉じられる第1楽章。

第2楽章はベートーヴェンがピアノ・ソナタにスケルツォを入れたのは第18番作品31-3以来のことだそうです。
またピアノ・ソナタではスケルツォを入れたのはこの曲が最後とのこと。

活気のある明るく弾むリズムで始まる第2楽章。
トリオでは荒々しさを感じるような。
第3部を経てコーダの半ばで速度を上げ激しい雰囲気も。
スケルツォ主題が弱く奏され閉じられる第2楽章。

第3楽章は187小節に及ぶ長大なアダージョだそうです。
その大きさ、表している世界の深いことでも未曽有の規模を持つ特異な音楽とのこと。
導入部の1小節は前述と重複しますが、印刷が始まってからベートーヴェンが付加したそうです。

荘重な趣で重々しくゆっくりとした導入で始まる第3楽章。
すぐ第1主題に。
静かに奏される物想うような寂寥感。
消え入るかのようなピアノの呟き。
静かに進む調べは葬送の雰囲気のようにも。
束の間、一抹の光明が射すように。
再び、いつ果てるともなく続くピアノの呟き。
展開部では重厚な趣も。
ピアノの哀歌、悲歌のように感じられる楽章。
静かに消え入るように閉じられる第3楽章。
印象深い楽章として心に残ります。

ピアノの独り言のような序奏で始まる第4楽章。
速度の変化が多い序奏。
早いテンポの勢いで主部に。
右手と左手の呼応で始まる主部。
すぐに音力を上げ力強く。
フーガ主題開始の部分には「幾分自由な3声のフーガ」と書き込まれているそうです。
フーガは380小節に及ぶ巨大なフーガとのこと。
力強く、活き活きとしたフーガ。
エネルギーの迸りのようなフーガ。
楽章全体が迸りの音楽の印象。
コーダも壮大さを感じさせつつ力強く結ばれ曲の終わりに。


第1楽章を聴き終えて出る溜め息。
第4楽章を聴き終えて再び溜め息。
「素晴らしい」と表現するよりも「凄い」曲。
止まらない溜め息。
音楽が終わり、尚、印象の強さに溜め息は止まらず、の状態。
嘗てはベートーヴェンのピアノ・ソナタ中、このソナタには最も強い苦手意識を抱いていたことが嘘のようです。

印象的な第1楽章。
アラウは力強いパートでの渾身の力での打鍵。そして激しさ。
アラウの指先からは持ち前(?)の朴訥さも感じられ好感を抱きます。
第2楽章、コーダでのアラウの力強い打鍵から怒りの感情のようなものも。
第3楽章から受ける深い感銘を与えるアラウのピアニズム。
第4楽章のフーガもアラウのピアノを通し惹き付ける魔力のようなものを感じます。

この曲を聴きながら頭の中から終始離れることがなかったのは
リース宛てへの手紙のベートーヴェンの記述。
「このソナタは苦しい事情のもとで書かれた。パンのために書くのはまったく辛いことだ」

集中的に聴いたのはアラウとソロモンでした。
両手のバランスの良いタッチ。
殊更に力強さを強調することなく、あくまでも鍵盤を労わるかのような優しいタッチ。
優しさと流麗さ。
ソロモンからは端正に紡ぎ出された美しい第29番として伝わってきます。
特に第3楽章の悲歌、哀歌 はソロモンの演奏では胸に突き刺さるものがあります。

               
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タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ ハンマークラヴィーア アラウ ソロモン

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Comment

●Re: お早うございます

rudolfさま、こんばんは。
いつもコメントをありがとうございます。
また、ずっとお読みくださっているとのことで感謝です。

今回は第29番になりました。
初期、中期のピアノ・ソナタの方も関心、興味があるものから始めてしまい、まだブログに登場していない曲を残したままで・・・。
シリーズ完了は何時になることかと・・・。

登場する演奏家は偏ってしまっていますね。
好みの演奏ばかり優先で。

> アラウの全集はブログ仲間の方に勧められて かなり前に購入していたのですが… 色々な演奏を去年聴いて 今年 改めて聴くと 味わい深いと…
> 今まで何を聴いていたのかなと 思ったりもしますね
> そんなものなのでしょうが… 人間の「脳」は不可思議ですね 、 これまで受け付けなかったものを急に受け付けたりもしますね

同じ演奏家の演奏でも「今まで何を聴いていたのか」と感じることってありますよね。
特に印象に残ることのない演奏だった筈なのに、時を経て聴き直してみると、ハッとしてみたり。
「これまで受け付けなかったものを急に受け付けたり」の類に入るのが私の場合は先ずこの第29番かと思います。
今回、この曲の感想を綴っていて自分のことながら不思議な想いを抱いていました。
自分ではない自分になったような不思議な感覚・・・。
そうなのですね、これが人間の「脳」の不可思議さ、なのですね。
「脳」は気ままで、良い加減で・・・悪戯者みたい。
この不可思議さが音楽を聴く、それ以外にも生きていることの面白さなのでしょうか。

アラウの全集はいつもお手元に、とのことでアラウ・ファン(?)として嬉しいです(^^♪
lumino | 2018.04.17(火) 20:19 | URL | コメント編集

●お早うございます

luminoさま
お早うございます お久しぶりです

29番「ハンマークラヴィーア」まで来ましたね
ずっと読ませてもらっています
いつも どの演奏を取り上げられるかなと楽しみにしています

アラウの全集はブログ仲間の方に勧められて かなり前に購入していたのですが… 色々な演奏を去年聴いて 今年 改めて聴くと 味わい深いと…
今まで何を聴いていたのかなと 思ったりもしますね

そんなものなのでしょうが… 人間の「脳」は不可思議ですね 、 これまで受け付けなかったものを急に受け付けたりもしますね

この全集も いつも手元に置いています
ミ(`w´彡)
rudolf2006 | 2018.04.17(火) 04:40 | URL | コメント編集

●Re: ついに「ハンマークラヴィーア」ですね

burleskeさま
いつもコメントをありがとうございます。

やっと、やっと第29番です。
「ハンマークラヴィーア」はワインガルトナーのオーケストラ編曲版の演奏があることを、以前burleskeさまがお寄せ下さいましたコメントで知り、ディスクを求めて聴きこのソナタに親しみが湧いたものでした。
いつしかお気に入りのソナタになっていたのにも拘らず長年の苦手意識が沁み込んでしまっていましたので、このソナタから逃げていたように思います。

> 「ハンマークラヴィーア」は僕も以前は長大な第3楽章が苦手でしたが、最近ようやく素直に感動できるようになりました。

burleskeさまでさえ苦手な時期があったのですね。
第3楽章がこんなに心を揺り動かすものとは・・・ひしひしと感じています。
アラウで聴いている時には冷静(?)に聴くことができたのですが、ソロモンで聴いていたら感涙にもなりかねませんでした。
この第29番もいろいろな演奏でじっくり時間をかけて聴いてみたく思っています。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタの初期、中期も飛び飛びの登場になってしまっていますが、次第に後期のソナタに心惹かれるようになってきたこの頃です。
lumino | 2018.04.16(月) 20:03 | URL | コメント編集

●ついに「ハンマークラヴィーア」ですね

luminoさまのベートーヴェンのピアノ・ソナタ・シリーズ、ついに「ハンマークラヴィーア」の登場ですね。
「ハンマークラヴィーア」は僕も以前は長大な第3楽章が苦手でしたが、最近ようやく素直に感動できるようになりました。
アラウの「ハンマークラヴィーア」、改めて聴いてみましたが、じっくりと聴かせてくれて良いですね。
ソロモンも今度じっくりと聴いてみたいと思います。
burleske | 2018.04.15(日) 20:56 | URL | コメント編集

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