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2018.06/09(Sat)

Op.443 ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第32番」 by アラウ(新旧2種の録音で)

ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴くシリーズ」。
今回でこのシリーズも何とか無事に最終回を迎えることになりました。
ソナタ全32曲のうちベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタ第32番を。
シリーズの締め括りは、やはりアラウで。
1980年代の新録音を主として、1960年代の旧録音の2種で聴いてみました。

ベートーヴェンピアノ・ソナタ第32番
アラウ~デッカ録音全集より

437ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第32番クラウディオ・アラウ~デッカ録音全集

ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111

クラウディオ・アラウ(P)
(旧録音:1965年10月)
(新録音:1985年6月)

第1楽章:Maestoso – Allegro con brio ed appassionato
      ハ短調4/4拍子 ソナタ形式
第2楽章:Arietta: Adagio molto, semplice e cantabile
      ハ長調   


作曲されたのは1821年から22年にかけてだそうです。
先に書かれた作品109の第30番、作品110、第31番と同様に「ミサ・ソレムニス」と並行をして作曲されたとのことです。
スケッチは1819年に始まり1822年の初めに完成。
浄書された原稿には1822年1月13日の日付けがあるそうですがこれは浄書を始めた日と考えられ、書き上がったのはその直後のことと推測されるようです。

ピアノ音楽としては翌年に大作「ディアべりのワルツによる33の変奏曲」Op.120 を始め
この後に幾つか作曲されたそうですがソナタとしてはこれが最後の曲になるとのこと。
曲の楽章構成はベートーヴェンが幾度か試みた2楽章構成に圧縮されているそうです。

ベートーヴェンは1822年6月5日付けでライプツィヒの楽譜出版者ペータース宛ての書簡にて、ピアノ・ソナタを近いうちに渡すことができる旨を書いているそうです。
第30番から第32番までのソナタの他に更に一曲のソナタが着想されていたようですが、痕跡はスケッチにもまったく残っていないとのことです。

出版は1822年、パリとベルリンのシュレジンガーから。
自筆譜はボンのベートーヴェン・ハウス、ベルリンの国立図書館
チューリッヒのボドマー・コレクションに異なる草稿が分散しているとのこと。

            (wikiドイツ)443ベートーヴェン ピアノ.ソナタ第32番Die erste Ausgabe
             (ピアノ・ソナタ第32番の初版)

献呈はルドルフ大公に。
このソナタは最初の予定ではブレンターノ夫人であるアントーニエ・ブレンターノに献呈される筈だったそうです。
献呈についてはアントーニエ・ブレンターノ 或いは ルドルフ大公の両者間でベートーヴェン自身、かなり迷い二転三転をしたとのこと。
1822年7月1日、ルドルフ大公宛ての書簡にベートーヴェンは次のように記述しているそうです。
「殿下はソナタ <ハ短調> がお気に入られたようにお見受けしましたので、それを突然献呈しましても無作法ではないと考えました。」
因みにアントーニエ・ブレンターノにはベートーヴェンが変奏技法を集大成し、バッハの「ゴルドベルク変奏曲」と並び変奏曲の最高傑作とされる「ディアヴェリのワルツによる33の変奏曲」(1819-1823年作曲)が献呈されたとのことです。


アラウで聴くベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番

力強く厳かな序奏で始まる第1楽章。
荘重で暗さが漂う序奏。
低音域の重厚な響きと余韻が重厚で荘重な趣を更に増加させているようです。
弱音になり奏される左手の低音域を轟かせつつ主部に。
主部に入り低音域の轟きが激しくクレッシェンド。
フォルティシモで力を込め奏される第1主題の冒頭動機。
緊張感が漂い気迫を感じる雰囲気の第1主題。
第2主題が現れ右手で奏される高音の調べは清楚で可憐な趣。
コーダでの新しい旋律が静かに奏され閉じられる第1楽章。
この楽章では気を抜いて耳を傾けること許さない(?)ような、第1主題の魔力の虜に。

第2楽章は主題と5つの変奏からなっているそうです。変奏番号は付いていないとのこと。

静かで柔和な雰囲気の主題で始まる第2楽章。
夢幻的な世界に足を踏み入れたような雰囲気。
ゆったりと静かな佇まいの調べ。
低音域の響き、高音域の清澄な音色が醸し出す調べ。
気が付くと第1番目の変奏に。
主題が簡素で素朴な雰囲気を醸し出しつつ変奏され惹かれるものがあります。
5つの変奏を聴きつつ各変奏で印象に残るのは
楽しげな雰囲気も漂っているような3番目の変奏。
4つ目の変奏の活発な趣。右手は戯れを連想されるような。
最後の5つ目の変奏では低音域の細かい伴奏に右手の流麗な動きが印象的。
続くトリルがからコーダに。
クレッシェンドの盛り上がり、そして現れる主題。
一音一音を噛みしめるかのように奏され静かに迎える曲の終わり。


曲が終わっても第1楽章の第1主題の旋律が脳裏で響き続けるかのような強い印象を受けます。
対照的な第2楽章。
繰り返し聴きたくなる楽章です。

今回、主として聴いたアラウの演奏は1985年の録音とのことですので、82歳頃でしょうか。
旧録音は1965年だそうですので、ちょうど20年の月日を経ての録音。
このソナタも新旧で聴きつつも明瞭に区別することは私にはできそうもありません。

新旧の2種の演奏の間の20年の時間の差が先入観となり感想に紛れ込む可能性を案じつつ以下に。
新録音では音の輪郭がスッキリしていて聴き易く感じるようです。
旧録音では伸びやかさを感じる演奏。
第1楽章、第1主題の気迫と精力的なタッチ。
アラウはこのソナタでもフォルティシモを強く叩き付けるタッチではなく丁寧な音作りが心に残ります。
第1主題と第2主題の対比も素晴らしいタッチで、一音一音から表情が感じられるよう。
耳を傾けつつ、旧録音でも闊達に楽想を生き生きと再現する精力的なピアニズム。
聴いている最中にふと「新、旧、どちらの演奏を聴ているのだった?」となることも。
第2楽章での静かで穏やかな優しい歌。温か味を感じるピアニズム。
旧録音より20年を経た新録音では深みも増しているような(先入観?)。

ベートーヴェンの最後のソナタ。
アラウにとっては年齢的にも「最後の録音」となることを内心意識しつつ演奏をしていたのだろうか、と考えてしまうことも。
アラウの紡ぎ出すソナタ第32番。
新旧ともに、アラウの真摯で誠実な語りかけを聴く想いで耳を傾けていました。
今日は6月9日。1991年6月9日、アラウ逝去。
偶然にもアラウの祥月命日のようです。

シリーズとしては今回で一旦、終了しますが、苦手だったベートーヴェンのピアノ・ソナタがお気に入りのジャンルになりました。
これからも顔を出すことになりそうです。
シリーズ中にお寄せ下さいましたコメントの一つ一つに心から感謝をしています。
お寄せくださいましたコメントにより他のピアニストの演奏を知りディスクを求めることもできました。
ソロモン、ギレリス、イヴ・ナット、そして最近のニコラーエワとの出合いもコメント、ブログのお陰です。
ありがとうございました。
これからもベートーヴェンのピアノ・ソナタは弦楽四重奏曲とともに聴き続けてゆきたいと思っています。

                 
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テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

タグ : ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第32番 アラウ ルドルフ大公 ブレンターノ

21:17  |  ベートーヴェン  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●Re: お早うございます

rudolfさま、こんばんは。
いつもコメントをありがとうございます。

「ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴くシリーズ」の「完走」は自分自身どうなることかと想っていました。
皆さまのコメントに励まされつつ・・・本当にありがとうございました。
本当に、全曲を続けるのは大変な事なのですね。
増してや私にとってはベートーヴェンのピアノ・ソナタは苦手なジャンルでしたのに無謀にも走り出してしまった日・・・今になるともう懐かしく想われます。
全曲を聴きたいと本気で思ったのはrudolfさまのブログでソナタ第26番の記事を拝読したことが契機でした。
シリーズの火付け役(?)はrudolfさま、ですね♪ いつもいつも感謝です。
コワセヴィッチとグードの全集もrudolfさまのブログを拝読させていただき出合うことができた全集。
次に新しい全集を手にすると、ついそちらに・・・コワセヴィッチもグードもまだ全曲を聴き終えていなくて(-_-;)

次のシリーズ・・・。また、ピアノ・ソナタかも、ですね。
過日、rudolfさまがお寄せ下さいましたコメントを拝読させていただき、聴いてとても気に入りましたので(^^♪
lumino | 2018.06.16(土) 20:09 | URL | コメント編集

●お早うございます

luminoさま お早うございます

ベトベンのピアノ・ソナタ 全曲シリーズ 
完走 おめでとうございます。 ㊗️
全曲 続けていくのは なかなか 大変ですよね
お疲れさまです

luminoさんの記事から また聴いてみようと思う曲、演奏も多々ありました 32曲もあると なかなか覚えられないようで…爆 

次はどんなシリーズが始まるかと 心待ちにしています
ミ(`w´彡)
rudolf2006 | 2018.06.16(土) 07:28 | URL | コメント編集

●Re: 締めくくりは32番ですか

burleskeさま
いつもコメントをありがとうございます。

シリーズの締め括りはやはりアラウになってしまいました。

> アラウのベートーヴェンを聴くと、なんか安心感がありますね。

そうなのですよね。
旧録音、新録音ともに安堵感、そしてburleskeさまが仰る「味わい深さ」を感じます。
アラウの演奏が気に入っていながら、一体何がアラウも魅力なのかと自問してしまう時があります。
それらがアラウの魅力なのでしょうか。

ソナタ第32番ではニコラーエワのディスクが見つかったそうですね。
ザルツブルグ音楽祭のライヴとのことですね。
アラウを聴く前に、手持ちのニコラーエワの32番を初めて聴いてみました。
前回聴いたソナタ第11番とは打って変わり、第1楽章での力強いタッチ、第2楽章の繊細な優しいタッチに惹かれてしまいました。

ギレリスは32番の録音を遺されていなかったのですね、ウッカリしていました。
このシリーズを通して、ソナタ全曲録音を遺すことができなかったお二人、ソロモンとギレリスとの出合いも忘れ難いものになりました。
特にギレリスに関しては、昔からの思い込みがありピアノ・ソナタを聴き、その演奏に新たな目覚めを感じたように思います。
またシリーズを通し未知であったピアニストに出合う機会にもなりました。
イヴ・ナットの全集も、まだ全曲を聴いていないのでじっくりと聴いてみたいと思っています。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集(選集も)がだいぶ集まってしまい、「シリーズ」を終了しても聴くことが追い付かずで嬉しい悲鳴です。
lumino | 2018.06.11(月) 20:58 | URL | コメント編集

●Re: 無事にコンプリートしましたね!!!

龍さま、こんばんは。
いつもコメントをありがとうございます。

「ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴くシリーズ」に長い間お付き合い下さいましてありがとうございました。
シリーズも何とか終了をしました。
まだ、確認をしていないのですが私のことですので、抜け落ちている作品があるかとの心配も・・・。
私自身、このシリーズを続けて本当に良かったと思っています。
シリーズとして自己強制的(?)に聴くことをしなければ、いつまで経ってもベートーヴェンのピアノ・ソナタは苦手なジャンルのままであったように思います。

> 特に究極の美と言える「30番」が好きですね。冒頭のメロディーがアルペッジョのように聴こえ、ひたすら美を求めたアシュケナージの演奏が最高と思います

龍さまがお好きなソナタ第30番。
本当におっしゃるように「究極の美」ですね。
今回、アラウで第32番が収録されているディスクの1曲目が第30番でした。
30番の調べが流れ出し途中で32番に切り替えるのに後ろ髪を惹かれる想いでした。
30番をアシュケナージで暫く聴いていませんので、また聴いてみたくなりました。
ベートーヴェンのソナタ全32曲を聴き、どのソナタにも惹かれるものがあるのですが「一番のお気に入りは?」と尋ねられたらやはり「第30番」になりそうです。

龍さまはAKB48の萩野由佳さんと仰る方のファンなのですね。
グループ名しか知らなくて・・・。
胸がときめくことがあるのは素晴らしいですよね。

お世話になりました。本当にいろいろとありがとうございました。
lumino | 2018.06.11(月) 20:17 | URL | コメント編集

●締めくくりは32番ですか

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ・シリーズ、締めくくりはアラウの32番ですか。
旧録音で聴きましたが、味わい深くて良いですね。
アラウのベートーヴェンを聴くと、なんか安心感がありますね。

32番のソナタでは、手持ちのCDを探していたらニコラーエワの87年のザルツブルグ音楽祭のライヴ録音を発見しました。早速聴いてみようと思います。

そういえば、ギレリスはベートーヴェンのソナタの選集では32番のソナタを録音していないのですよね。
聴いてみたかったですよね。残念です。
burleske | 2018.06.10(日) 21:20 | URL | コメント編集

●無事にコンプリートしましたね!!!

 こんにちは。

 ベートーヴェンのピアノソナタを聴くシリーズ無事にコンプリートしましたね。 お疲れ様でした。
お蔭様で、私も聴く機会をもつことができましたし、解説や感想を聴く参考に
させていただきました。
 ありがとうございます。
それで、昨夜から改めて好きなソナタを聴いてみました。
「悲愴」「熱情」「テンペスト」「告別」「ヴァルトシュタイン」「30番」「32番」を。
特に究極の美と言える「30番」が好きですね。冒頭のメロディーがアルペッジョのように聴こえ、ひたすら美を求めたアシュケナージの演奏が最高と思います。

 話は逸れますが、私は年甲斐もなくAKB48グループのNGT48の荻野由佳にはまっているオタですが、グループの人気投票とも言われる世界選抜総選挙の速報実況動画を観ていて荻野由佳が1位になったことに胸がときめきました。その日はハイになり翌日は普段読むことがないスポーツ新聞を買って芸能蘭を熟読する有様でした。
オタなので、オーディオ購入でよく秋葉原テレオンに足を運びましたが、ついでにメイドカフェにも行きました。

 次のクラシックは何を取り上げていただくのか楽しみにしています。サンクス

龍 | 2018.06.10(日) 14:41 | URL | コメント編集

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